なみだ
塩崎みあき



小糠雨の止む
午前十時の
霧起つ街路では
弱い日光を
全身に溜めた
雨粒が
エレジーとともに
消える

無色透明の中の
一筋の色ガラス
たちの群れ

粒子のように渡る
鳥の声は
季節の断末魔だった

今まさに鋭い嘴で
割られ弾ける雨粒は
千々に
ばらばらに
なって
霧になって
人がいちばん欲しいものに
なって
どこか知らない
遠くに渡って行ってしまう

小川が一筋流れている
それに沿って
緑の濃い平原が広がる
白い小径が続いている
歩いてゆくと
赤い毛糸の
千切れた切れ端が落ちている
その脇の
草むらから
大きな
毛虫が一匹這い出してくる

遠雷は季節の産声だった

青のなかの
雲の
なかの

なみだ

こぼれ落ちて
そのあとに




雨上がりの大空に
迷子の
雨粒がいて
帰りたいって
泣くから
帰り道を作ってくれた

晴れの日の
向こうの空の
わた雲が
終着地点を
あやふやにするから
渡り鳥が
やってくる

なみだってどんな型

鳥は
プリズムの中をゆく
涙型をした空の抜け穴から顔を出して
無邪気に笑っている
真昼の空の
道しるべのまぶしい




卵から孵った鳥たちの
悲痛の叫びは
5月のツツジ色を
変えてゆくが
墜落の
果てにあるのは
柔らかく
暖かい
借家のベッドだった
それで
なんだかよくわからなくなって
思わずなみだした

自由がガラス玉のように
固くなって
傍らに堕ちていたので
手ですくいあげて
思わずなみだした

空に小さい穴が開いていて
そこから
季節が見ていたので
手を振ったら
どこかに行ってしまって
思わずなみだした

彼らがまだ未分化の
卵だった頃
彼らは
彼らの
空を渡っていた

液体の中の
七色の反射光
手を伸ばしたら
消えてしまった

空に堕ちる夢だった



自由詩 なみだ Copyright 塩崎みあき 2011-06-02 22:37:24
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