パンの角
はるな


酩酊する鳥、踊り狂う爪、剥がした謝罪と月明かりの弓、オレンジ色のケースとそこに収まるグラス、腕まくりした腕の傷、傷跡に群がる蟻たちと、すっぱい緑色、ひざまずく、俺はひざまずく、すべての信仰と薄まったビールに跪く、踵の高い靴を履いた若い女たちが行く、笑っている笑っている、白い白い笑顔、開け放した窓、窓からの景色は蕩けてゆく、その合間に見せる憂い、たなびく警鐘、思い出の戸棚、仕舞われた殺意、笑っている笑っている笑っている笑っている、小説のワンフレーズのように花が笑っている。

俺は線を引く、お前たちは線を引く、あらゆる人々があらゆるやり方を用いて線を引く、長い長い線を引く、気の遠くなる思い出がやってくる、幕が引かれる、手紙が焼かれる、物事が傾いていく、鳥が落ちていく、ひとつの考えにとらわれる、人々はゆっくりと囚われて行く、逡巡の間に間に、人々は蕩けていく、水は熱せられていく、見つからない穴に閉じこもっている、神々が蕩けていく、岩戸は開かれない、祭りは催される、かつて無いほどの規模で催される、でも行われない。

赤い赤いキャンドル、青い青いパンプス、唸るコンピュータ、半分の脳みそ、猿たちのダンス、お前たちのステップ、そして、報われない数々の努力。

俺は笑う、あざ笑う、全ての徒労を、全ての努力を、全ての涙を、全ての悲しみを俺はあざ笑う。結ばれなかった約束を、呼ばれなかった名前を、報われなかった努力を、届けられなかった手紙を、出会わなかった運命を、時間を、意味を、理由を、喜びを、俺は嘲笑う。いい気分だ、飛べそうだ、落ちることさえ出来そうだ、いい気分だ、お前たちの泣き叫ぶ顔を俺は見たい、俺の性器を咥えろ、俺を喜ばせろ、お前たちは怒り、悲しめ。

醜い女が笑っている、笑っている、笑っている、何も許していない神父、教会の鐘が盗まれる、新郎は首を掻く、花は積まれる、駒は投げ出される、そうだ、お前らはもうずっとfeedされている。

俺は祈る、祈っている、石ころに、昆虫に、ブックカバーに、人参に、ヘアクリップに、女に、男に、老人に、赤子に、神父に、神主に、思想に、水に、空に、海に、木々に、森に、畑に、事象に、俺は、俺は祈っている、いつから、一体いつからだ、俺は祈っている、それは祈りか?お前らにはわからない、俺もお前らがわからない、何もわからない、わからない、わからない、お前らはいつから笑っている、お前らが笑っている、俺も嬉しい、死ね、お前らが死ぬ前に、俺は祈っている、俺の、俺が、祈っている、笑っている、唯一つ、信じたもののために。



自由詩 パンの角 Copyright はるな 2011-05-31 19:41:05
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