小田原
小林 柳


昼下がり、一人の子供が道端で待っている。
何を、というのではない。ただ当てもなく待っているのだ。
小さな眉をかすかにひそめ、人通りの絶えた路地を眺めている。
年に似合わぬ気配が、傷ひとつない顔に漂っている。

彼は、いつか大人になることを知っているだろうか。
生まれた海辺の街を離れ、流れ込む場所、あるいは泳いでいく場所は、きっと彼のよく知る海にはない。打ち寄せる岸辺を持たない、都会の人波の中である。そのことが、もう彼を退屈させるのだろうか。

光の庭の外に広がる闇。街灯が点り、あたりは緩やかに沈んでいく。
どこかで鐘が鳴れば、ひとまずは家に帰る時間が来る。それはいつしか、遠い土地への出発を告げる音に代わるだろう。

潮風吹く路地は、都会へと続く国道に繋がっている。彼の街、彼の道路は、記憶の中にだけ影を留める。
名もない真夜中に見た、テールランプの残像のように。



自由詩 小田原 Copyright 小林 柳 2011-05-31 02:49:33
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