抱擁と接吻
きりえしふみ

不恰好な全身の告白でお前と私は
平たく言えば敢えて摩擦を 生じさせているだけ
消費し合っているだけ
歪み合い 奪い合い 小さく
殺し合っている
そうすることで まるで二つが一つに溶け合っていると
勘違いしたいだけ

お前の 私の ほんとうは此処にあるのだと
てんで馬鹿げた妄想に 捕らわれたいだけ
思い込みたいだけだ

異なる二つを無理やり括りつけて どうにか
結び目を作りたい また作れるものと
思いたいだけだ 騙されていたいだけだ

 心は余りに透明で 冒しがたいから

別の部分で歪み合う
お前と 私とを
マッチ棒のように摺り合わせて
自分たちには到底到達出来ない
時間へと 種を吐き出している

私も お前も 無意識に
あの放埒な血に操作されたまま 無意味な
そして意味のある
一を投じた

 それさえも この先の未来へ
 到達し得ない種であっても

「ご覧……」

 体に隠れた あの透明で冒しがたい何かが云う

「私も お前も きっと ほんとうのところでは
 此処にはいないのだ」
と……

(c)shifumi kirye 2011/05/16


自由詩 抱擁と接吻 Copyright きりえしふみ 2011-05-30 15:50:29
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