横須賀線物語
花形新次
あなたが
うとうとしはじめたのを
向かいのシートで
見ていました
とても疲れているんだと
僕は思って見ていました
鎌倉駅を過ぎたころ
周りに人はいなくなって
僕と二人になりました
あなたが
本格的な眠りにおちて
頭がカクンと
揺れることが
僕はとても気になりました
逗子駅に着いたころ
僕はシートを立って
あなたの隣に座りました
あなたに
肩を貸すことが
今僕に出来る
精一杯のこと
現実から
解き放たれた
無防備な
あなたの
髪を
頬に感じながら
僕はやさしい
気持ちになりました
そのとき
あなたの
ひざが
左右に開かなければ・・・・
僕の気持ちは
変わらなかったはず
僕は
そっと向かいのシートに戻り
あなたのことを
見つめました
あなたのことを
ずっと
見つめました
逗子駅で
降りるはずだったのに