棒/スティック
竜門勇気


窓に棒が挟まっている。

黄色いノブがついたドアの内鍵の鍵穴に棒が詰まっている。

猫が毛足の長いカーペットに吐瀉物をぶちまけ、「わたし」が観察すると無数の棒が見られた。

跳ね橋の建設に従事する建設会社Aでは棒が祀られている。

水を飲もうと蛇口を「俺」がひねる。無論金属が超低温化で砕けるような音を立てて棒が溢れ出る。

となりの奥さんが「我が家」の物音に驚き、スーツ姿の青年に三言ほど話しかけたあと、棒になった。

冬は棒に過ぎない。秋とは棒における過渡期である。
春は夏は。

子供たちは棒の先端においてのみ子供であるという、偽装された自己同一性を獲得するが、第二次精通と不感体験を経ると棒を内部構造とする。(それゆえ没社会性を獲得する)

棒は同時に二点に存在する。

生命倫理の講義ではしばしば壇上に数条の棒が見られる。

満員電車で「自分」以外はみんな棒だった。

大邑上の邸宅には棒が転がっている。

その三件隣の村早家には棒が刺さったまま長男を出産した女性が住んでいる。

愛媛OPPSSDI研究所前所長である早村荘司の論文に棒が癒着した為、現所長であり、愛媛OPPSSDI研究所が存在する愛媛車蓼村村長の早村荘司は、同村初の「棒を主体とした村会議」を開催した。
棒は即時解体され、村民有権者58人に振舞われたという。

ペットボトルは棒である。

ギリシャの哲学者ガックスは棒によって死んだ。

晴れた日では60%、曇りまたは雨では25%。しかし降雪が見られる地域では常に57%。

ポリキャップやスチール缶は市町村のリサイクルセンターで回収され、棒によって再びポリキャップやスチール缶として再利用される。

車椅子の老人が「わたし」を追いぬき、振り返ったその顔は棒だった。

アテネで初めてのオーケストラは演奏を棒に聴かせた。

無くしたはずの鍵は棒から出てくる。――ユダヤの金言

いつの間にか山道を走っていることにも驚いたが、そこには棒が「一本も」ないことに気づきパニックになった。

全宇宙の恒星の三割は棒である。



散文(批評随筆小説等) 棒/スティック Copyright 竜門勇気 2011-05-21 02:54:53
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