うたたね
mugi



おともなく
とりがおちている
水色の
ふちの欠けたバケツに
吸殻を捨てる
おわった花火が
ひたされている

夏は、ここで
行き止まりだった







、、







やがて
警笛がならされる
とりたちが
みなみにむかって
とびたつ

そらがいっせいに
毛羽立って







、、







     格子窓から、はちみつのような陽光がしたたり
それが彼女のほそい髪にふれると、稲わらのかおりがした、
大通りのむこうの、テレビ塔よりもずっとみなみの豊平川
をこえたあたりから煙がのぼっているのがみえた、白くて
ほそい、けれど巨大な腕がそらにむかってのびているかの
ようで、どことなく求道的な光景にもみえる、屋上にのぼ
ろうと彼女の手をひくと、夏だというのに陶器のように冷
たかった、







、、







( とおい砂浜で、
城をつくっているこども、)







、、







おかあさんが
りんごのかわを
むいてくれて
ほそくて、あかい
その
つらなりをたどると
いつかのはだしの
すなはまや
すいようびにかえしそびれた
ジドウショのことを
おもいだして
くたびれたほんの
かぜにふかれて
こすれあう
項と項との
枯れたくちびる






                         
、、






                 
切りおえたりんごを
塩水にひたして
そういえば
あのひ
海にすてられていた
はだかのはだかの







、、







     水が、金魚の味がするのは、裸電球が祭りや夜
店のイメージをひきつれていたからで、そういえば、硬貨
をにぎりしてめている夏だった、はげしい夕立のあとで街
がそのままプールに沈んだかのように湿っていた、鉄くさ
いてのひらからはなれた硬貨が、きちんと自販機にのみこ
まれてしまうのをまって、3つならんだコカコーラのまん
なかのボタンをおす、すると何故かペットボトルの水がで
てきて、ひどくやるせないきもちになる。所在なくキャッ
プをまわし、ひとくち水をふくむと、それが気管にはいっ
てしまい、むせびいた、はげしく咳き込んでおもわず吐き
出してしまうと、まるまるとした金魚が、地べたで砂まみ
れになってのたうちまわっていた、どうしてこんなものが
口からでてくるのだろうと訝っていると、白地の浴衣をき
た少女がとおりかかり、かわいそうと呟いて、それを手で
掬い、みずからの浴衣にそっと這わせた、金魚は袖から胸
へと、胸から腰元へと、あたらしい棲家をたしかめるよう
に泳いだあとで、もともとそこに描かれていたように、し
ずかになった、







、、







( 遺体がはこばれていくのを、
みたのよって、)







、、







水を抱き
ときに水が
愛を
ささやきあうのなら
あなたのいた夏も
いなかったそれも
たくさんの季節の
おとずれた街で
あいかわらず
ことばは順列を
なして
海沿いの観覧車へと
つづいている

耳が、
いくつもの音を、
同時に受けとりながら、
からからに干からびた、
舌が、
化石のように沈黙する夜に、
もう、語ることはすでに、
誰のあしどりか、
ほら、
またとりがおちるのなら、あなたが、
指をさしているその方角へむかって、栞がはさまれる、
千の、千切られた夏を、はりつける、巨大なしろい手が、
狼煙のようにそらに伸びて、おちたとりは、発砲性の入浴
剤がとけていくように、青と青のモザイクのあいまににじ
みはじめている、すこしは気分もよくなったかい、ここは
涼しいから、背中をさすってやりながら、わたしはその見
たこともない女について考えていた、女は妊娠していて、
それはわたしの子供であるような気もしていた、女の顔は
枯れた夏草をおもわせた、そこにいるのに、おもいでのよ
うに不確かだった、あれからいろいろと考えました、ある
いは、とてもながい話になるかもしれません、どうやら女
はわたしのことを語るつもりだった、ふと、次に女が口を
ひらいたら、それに拳をつっこんで、ただただ暴力的に唇
を裂いてやろうとおもった、







、、







ほんとうに
さよならをいうときは
そのひとを
ころすようなきもちで
いうのです







、、







     太陽が水平線に沈みきる、その日向色のほそい
糸がふつり、と、とぎれてやがて観覧車が地上にもどって
くるころに、あなたのすがたはどこにもみあたらなかった、
わたし(わたしと呼ばれていたその男)は、まだうす明る
い砂浜をとぼとぼと歩いている、男は、いま、みずからが、
記述される対象であることを知っている、ふと、どこかで
ロケット花火の破裂するおとがきこえる、正確には、男は
それをきいたと記述されている、わたしは誰だと男はいっ
た、つまりそのように記述されたのだ、またひとつ花火が
破裂する、近所のガキどもが通りをはさんだ向うがわの公
園ではしゃいでいる、わたしはタイピングの手をやすめ煙
草にひをつけた、キッチンでインスタントコーヒーをいれ
部屋にもどる、ふたたびディスプレイにむかい、男は、ポ
ケットからマールボロをとりだし、火をつけたとキーをた
たく、するとまたとりがおちた、しばしの静寂があり、男
はゆっくりと煙をはいた、すでに濃紺にそまったそらが、
空腹の胃のようにゆるやかにうねり、やがて、降りはじめ
の雨のように、数羽のとりがおちた、またひとつそらがう
ねると、たえかねた無数のとりたちがいっせいに落下をは
じめる、ひとつひとつが流星のように輝き、そらは焼きつ
くされようとしている、それは光で、音で、目をあけてい
られないほどの暴力で、血で、色彩で、都市や網膜や、記
憶で、生まれてくることの途方もないエネルギーで、つま
り死んでいくことのみすぼらしさで、目をあけていられな
いほどの閃光のなかで、男はさよならといった、わたしは
彼の瞼のうらにsayonaraとタイピングした、またひとつ花
火が破裂する、銃声のように渇いたおとで、









自由詩 うたたね Copyright mugi 2011-05-20 12:52:58
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