キャビネ
はるな


ピーナツバターを塗りたくってから、くだいたナッツをまんべんなくのせて、すこし焦げるまでトーストする。卵を溶いて、砂糖と出汁で味をつけて充分熱したフライパンで巻く。沸騰して火を止めてから三十秒経ったお湯で二杯分のコーヒーを淹れる。お湯をわかしている間にはすべてのカーテンを開けて、窓も少し開ける。あたらしい空気が入ってきて、こちら側の空気と、あちら側の空気を混ぜかえす。

奇妙な夢をみて、夢から抜け出せずに、ぼうっとしていた。キャビネにはうすく埃が積もっている。朝の光だと、それがよくわかる。米びつの上で葉物がしなびている。赤くなる前の太陽が床を斜めに這っている。それらがどういう理由でここにあるのかが、とつぜんわからなくなってしまう。

幼いころ、昨日と今日とはまったくの別もので、目が覚めれば自然と新しい一日が横たわっていた。それがだんだんと境目が薄れ、いまでは昨日と今日は地続きだ。時間を分ける境目は国境のように頼りなく、でも頑としてある。それをいまだに受け入れられないのだ。古びた野菜と、自分の身体との区別が付かなくなってきた。卵の黄身が白身ではないのは一体どういうわけだろう。壁に振り積もる埃でさえ、実在しているのに。
物事が異様に境目づく朝、境界はいっそ意味をもたなくなる。



自由詩 キャビネ Copyright はるな 2011-05-17 07:42:23
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