キレイゴト
yumekyo

古い連れに暴走族の集会に来いと誘われた
面白そうだから行ってみた
古い連れは十五の夜にバイクを盗み 補導された
僕は十五の夜に 他人の物は盗めそうになかったから
親父のワープロを盗んだ

大人が弄ぶ言葉は何もかもキレイゴトに聞こえた
教育とはポストハーベストと合成着色料たっぷりの
野菜サラダを食わされることだと思っていた
民主主義 社会福祉 表現の自由 実質的平等
フェミニズム 平和的核利用
セーフティーネット
ノーマライゼーション 
僕は十五の夜にドアを蹴破って
真の言葉を探す旅に出ることにした
手始めに 親父のワープロを盗んだ

僕は真の言葉というのは
野山の木々に実っていて
母の田舎で無農薬露地栽培されていたトマトのように
強烈な匂いを持ち かじると甘いものだと思っていた
ところがどうも勝手が違ったようだ
僕が本当の言葉だと思い込んだものは猛毒であるか
使いどころに困る代物ばかり
真の言葉は何処にあるか 
僕は途方にくれていた

いつの間にか十五に倍する年になり
僕にも部下や後輩が出来た
知的障碍を持つ方と一緒に働くことになった
彼女は昔のテレビ番組と芸能界の話題には人一倍詳しい
僕らが友人達と夜な夜な騒いでいる年頃
彼女はテレビを与えられてぽつねんと過ごしていたのだろう
世間が彼女を放置して回っていたのも事実だが
弱音を吐かず生き生きと働く今の彼女を作ったのは
キレイゴトであるというのも また事実

流通する言葉への疑念は
三十一にしていよいよ増すばかりだ
ただ ひとつの事に気付いた
真の言葉は 僕自身で生み出さなければならない
真剣に人を愛し 熱いまなざしで人を育てる生活の中で
僕自身が 育てなければならない
キレイゴトではない 手垢のついた力強い言葉で
できるだけ多くの人々が 歩いていって欲しいから


自由詩 キレイゴト Copyright yumekyo 2011-05-15 15:58:14
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