扉
きりえしふみ
今も変わらず
お前は其処に 在るのだけれど
私はお前の開き方を忘れてしまった
お前と語らう固有の光のような言葉を話せなくなった
お前は其処に今も 居るのだけれど
「こんなに……!」という程近くに 居るのだけれど
私の手にある鍵は変形したまま
お前のあの瑞々しい微笑みと抱擁……そして愛撫を長らく
お前の中に閉じ込めていた
解読不能の文字の一つさながらに
堅く閉ざされた扉を通して
今もお前と私は
相容れぬ接吻を交わす
指が重なるような距離で 離れ離れで
日毎 夜毎 狂おしい面持ちで辿った
お前への難解な道 苦難の道程
薔薇と棘に包まれた
お前の腕(かいな) その腕(かいな)の底のない程の深み
見捨てたのはお前……ではなかった
逃げ出しかったのはお前……の方ではなかった
扉の向こうで 今もお前は
私を見ている
私を焦がれている
抱えきれないものに埋もれて
手を尽くすことで
もう一度その扉を開けたなら
今度こそ 私は
扉の向こうの住人となろう
そして帰りの言葉こそ捨て置こう
(c)shifumi kirye 2011/05/14