椰子
乾 加津也

昔に植えた
自慢の椰子を倒してくれという
七メートルほどあるトックリヤシモドキが四本
これから台風がくれば
隣の駐車場の人様の車の上にいつ倒れるかも知れないのが心配で
風の日はよく眠れないのだといい

ホームセンターで
アドバイザーは
太くもないのにそんな簡単なことをとむきだしの表情(かお)
それでも二言三言の助言をつなげて
アルス二十七センチを買い戻り
倒す角度を慎重に向けながら
少しは声もみなぎらせ
ああでもない
こうでもないと
二人がかりでなんとか無事に切り倒す
北西にさらす築三十七年の実家は
これからますます西日にかすれてゆくだろう




その日暮れ
ふだん自分では選ばない三流ビールに
先を歩む人の
安堵とわたしへの信頼と
汗臭い皺の手が注ぐ
やさしさがあった


自由詩 椰子 Copyright 乾 加津也 2011-05-13 15:50:38
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