ケ・セラ・セラ
高梁サトル


長く暗い道を歩くときは
壁に標を残しておいで
忘れたら帰り方さえ分からなくなる
とっくに淋しさなんて通り越した
薄ら寒いだけの街の骨董屋で
ひび割れた器を探している

清潔すぎて
長い時間共にいられなくなった
人びとは
見て見ぬフリをする遊びを覚えて
いつだって犠牲がなければ輝けない
野蛮なものは過ぎた愛情だと笑った

穢れもいつか浄化され
ゆるやかな海に還れると
縋りつく憐れな頭を撫でる
手が目の前で突然無機物になって

、カリリ

噛んでも味も
無い
「おとうさま。」

苦行なんて愚かな行為を
自ら進んでするものじゃないと
それは向うから勝手に
やってくるものなのだと

、カリリ

呼んでも声も
無い
「おかあさま」

(今でもときどき眩暈がして
(いつまでも産まれない主語たちを
(駆け込んだトイレに流す

目の前のきみの輪郭がぼやけて
慌てて眼球の筋肉を引き締めるのに
もう風景と同じにしか見えない
軸もカテゴリも前頭葉で溶け合って
子供の頃におそろしかった魔法の言葉
“ケ・セラ・セラ”の意味を理解する

遠くから声がしても
振り返えらないで
楽園は永遠にあの頃のまま
大切に保存される


自由詩 ケ・セラ・セラ Copyright 高梁サトル 2011-05-13 01:16:03
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