橋は、スイッチである
石川敬大
埠頭から埠頭へとコンクリートと鋼鉄の道を手わたす
橋の下で
アキ缶を叩きつぶしながら
男たちがラアラア話をしていた
母音/子音
混ぜあわせたコトバが
まったく意味がわからない
コトバをぼくは、聴くともなしに聴いていた
隔たった耳の羽音を凍りつかせて
すこし荒々しい口調の
でも、尖っているわけではない感情が
夏のアイスみたく蕩けている、わけないが…
巨大なクレーンが三機
船尾から蜘蛛の糸ひくタンカーが寝そべって接岸している
港湾施設が
ここからはよくみえた
どす黒い海面にたくさんの漂流物が浮遊しているのも
ボコッ
ベコッ
ガチャン
しばらくの静寂……は、どうしたのだろう
……するとふいに、軽トラックがあらわれて荷台に
つぶしたアキ缶入りの袋を抛りこむ荷台に
バーン
ガチャ
バンバン
ダンボールを叩きつぶす音がまじる
どこからきたのか女たちの姿もあって
なにをしているのか……まるで、わからない
隔てられたら指一本入れられない
*
母は晩年、補聴器をしていた
雑音がうるさいと耳から外して放心していた
そう、みえた。歯がゆくてかなしくてイライラしていた
ぼくを
ふくめた社会をシャットアウトしていた
*
埠頭から埠頭を無機質な物質でつなぎ無機質な道で結ぶ
すなわちそれがスイッチであるから
橋の下で
ラアラア喋っていた
女たちがまじる男たちにまじって放心の眼を遠く抛りなげていた
あのときの母のように
ぼくの姿は
異国のかれらにみえていたのかもしれない