曇天に魚
はるな

長いうでに春風をからませて
すいすいとあるいていく
かび臭いまちを泳ぐように

恋はもう
ずいぶんまえに終わっているのに
曇天に胸が鳴る
彼がふりむいたら
また恋がはじまってしまう
そうならないようにと
花びらを数えながら追う

たとえば
あなたがそこにいて
わたしもそこにいた
それが全てだった
そういう恋を
もう一度できるものだろうか

季節を思い返すような恋なら
しないほうがいい
塞がった胸のすき間から
膿ばかりがでてくるような

恋はもう終わっているのに
あなたはここにいて
わたしもここにいる
そのことが全てだと
言うことができないのに

何かのせいにしたくて歩いているのは
わたしだけだろう
曇天に魚
すいすいと歩いていく
波をつかむように
風をからませながら
いつだってあんなふうに歩きたかった
湿った目で
あかるい頬で
ふりむいたら
恋がはじまってしまう



自由詩 曇天に魚 Copyright はるな 2011-04-10 15:16:18
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