この冬が終わったなら
A.Yusa
夜明け前に隅っこに追い遣られた君は
行き場を失い
長過ぎる時間を持て余し
爪を噛む
ボロボロになった爪の先を揃えようと
また爪を噛む
そしてひとりぼっち
夜の隅っこで
寂しくなんかないよなんて嘘を吐く
誰にも見つからないように
誰にも悟られないように
爪を噛んで
傷つけて
傷つけては整えて
朝を待つ
長い夜の明けを待つ
悪い癖は早く治しなさいと
みんなが言う
爪を噛むのは
悪い癖だと
夜更かしも
酒も煙草も
身体に障るから辞めなさいと
でも
真夜中の真ん中で誰にも邪魔されずに
世界を眺めることは悪いことじゃない
真っ暗な夜の隅っこに大きな世界地図を広げて
気球を飛ばし
白帆に風受けて
旗を掲げて
待っている
気まぐれな風に髪を靡かせながら
翻弄されながら
抱えきれない程の花束を抱いて
世界を描く
君だけの世界を
君は君の世界の隅々にまで
花束を投げ
花びらを敷き詰めて
絵の具を溶き
絵筆を手に取り
隅々まで君の色に染め
そして歌う
やがて君の歌で埋め尽くされた世界で
君の咲かせた花で埋め尽くされた世界で
君は
終わりのない愛や平和を描く
そして
夜明けにそれを
この世界にバラまいて
眠る
朝に目覚めたなら
きっとみんなが口を揃えて
夜更かしはやめなさい
酒も煙草もやめなさい
夢ばかり語らずに
現実に目を向けなさいなどと言うから
君はまた夜の隅っこで爪を噛む
夜が長過ぎて
夜が短過ぎて
いつも君が迷子にならないかと
僕は心配で眠れない
眠らずに
眠れずに
夢を見る君
夢に泣く君
いつかこの世界に眠り
眠るこの世界の隅っこで
同じ風を受けて
同じ光を浴びて
一緒に笑いたい
いつか、
いつかの日にか…。