Land Scape Goat
雛鳥むく
わたしの背に
連綿とつづく原野
そこに暮らしていた
一匹の仔兎が
今夜
死にました
、
という
あざやかな寓話を
包帯にくるんで
玄関の扉に
吊るしておきます
けれども街には
乾いた三角点が
散乱しているから
誰もが尾鰭の手入れに夢中で
わたしはひとり
兎を追悼する
準備にかかりました
兎を、弔う
兎を弔う兎を、弔う
兎を弔う兎を弔う兎を、弔う
兎を弔う兎を弔う兎を弔う兎を、弔う
わたしの背に
連綿とつづく原野
そこに暮らしていた
一匹の仔兎が
今夜
死にました
*
骨のない魚を
のみこんでいくネオン
空中庭園のうえから
たくさんの神話が
飛びおりてしまった
というひとつの神話を
空中庭園のうえから
突き落としたのだけれど
ひとつも
血は流れませんでした
(そのとき
(兎の死骸は
(神話を
(肯定できなかった
神話と、
そうでないものが
入り混じって
忘れられた幽霊たちは
清潔な比喩を
夜空に点らせていきます
*
兎の死骸がわたしに問いかける 散華の花言
葉を知っていますか 答えられるはずがない
なぜならわたしは自分の尻尾を追いかけてい
る最中で 指先から葉脈を追っていくとやが
て深い海溝に辿り着いた 夜闇が信号機を運
んでくるのではなく点滅を繰り返す黄信号が
夜を運んでくるのだから 影絵で遊ぶ手が失
われたから夜は薄暗いのかもしれないと呟く
右手に絡まる影が兎の死骸をぐわりと攫って
いったとき街には三角点が散乱し 空中庭園
のうえから飛びおりていくひとつひとつの清
潔な比喩が骨のない魚の鰓を手入れするのだ
として、
だとしたら、
もしも、
仮に、
と
神話を
量産する
わたしが
ひとつの
神話
だとしたら、
ただひとつの変貌が
わたしの手ではおこなえない
ナイル青の
審判を
待つ
誕生
兎が死ぬ世界にいる
わたしの誕生
兎が死ぬことのない世界にいる
わたしの誕生
あらゆる
病理というものを
内包した
神話を
空中庭園から
突き落とすわたしは
青く燃えあがる
アスファルトのうえに
突き落とされたかった
どうせ血は流れない
*
わたしの背に
連綿とつづく原野
そこに暮らしていた
一匹の仔兎が
今夜
死にました
、
という
あざやかな寓話を
包帯にくるんで
玄関の扉に
吊るしておきます
けれども街には
水没のはじまりを
告げる鐘の音が響き
人々は
そもそも 兎が
うまれることのなかった世界に
黙祷を捧げていたので
わたしはひとり
兎を追悼する
準備にかかりました
兎を、弔う
兎を弔うわたしの誕生を、祝う
兎を弔うわたしを祝うわたしを、弔う
兎を弔うわたしを祝うわたしを弔うわたしの誕生を、祝う
わたしの背に
連綿とつづく原野
そこに暮らしていた
一匹の仔兎が
今夜
死にました
、
という
ひとつの間違い
約束を啄む
巨大な世界樹に
わたしは
愛犬と同じ名前を付けてやる
ポチ
ほら ポチ
わたしは犬など
飼ってはいないのだけれど