君が腕を切った
はるな


君が腕を切った
赤く腫らして痛い痛いと振り回すので油をつけてやった
君が腕を切った
赤黒い血がほんの少しだけ滲んでいた

瓦礫の下からは
今日も顔のわからない人間が出てくる
積み重なった人間の上にまた瓦礫が積み重なり
幾重にも幾重にも積み重なり
その上を分厚い地面のように歩いている

君が腕を切った
分厚く平らになった地面からは知らない匂いがする
君が腕を切った
君の腕を切った
波は誰にも頼まれずにやって来た
それが波と君との違いかもしれない

空はもともとだだっ広いのか
春はこんなに寒かったか
君が腕を切った
昨日まで崩壊を口にしていた

べたべたになった体に
べたべたになった掌を押しつけて
君が腕を切った

言葉は奪われていった
誰でもないものに
何ものでもないものに奪われていった
空が残った
瓦礫も残った
でも何も残らなかった

膨らんだ体や
干からびた体が
毎日を待っている
生きていようとなかろうと
一日の終わりと始まりを待っている
もの言わぬ個体と瓦礫に囲まれて
君が腕を切った
君は腕を切った



自由詩 君が腕を切った Copyright はるな 2011-03-29 03:01:15
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