ボクらのバラエティーブック
乾 加津也

岡ちゃんはフラれた昨日をネタにしてジョークジョークと高笑う
ねじり鉢巻キマってんのにモテねぇじゃんか
あらよっ もいっちょ
ソビエト連邦崩壊しても
コンベアの冷凍サーモン高々と積みあげ
平和島の冷凍倉庫
四十五歳いまだ独身!ジョークがとりえの俺様よワハハハ




江戸文字風の魚市場
足の裏から突きあがる煤けたエンジンの怒涛
照明の下で
卸のトラックが横一列ド派手な看板うかびあがらせ
口を開けて集荷をまっている
始まったら
(出待ちの)運ちゃんには気をゆるすなよ
仲良くしゃべる隣で盗(や)られるから
つっ立っててもチェッカー役さ
さあて 午前零時だ
シャッター全開 早出しスタート
むっとくる防寒服の匂いにも慣れれば
指先よろしく蔵出しの爪を引きながらフォークを自在に転回させる
うぬぼれ青二才たちのコンサートが始まる

 そのせつなにも
 視界の右端
 じわりじわりと
 海のほうからにじり寄る
 おとを
 汐で洗われた朝もやの
 紫の変化(へんげ)だけは
 よもや
 捉え損ねることはない





抱きしめたい疲労感で
きょうも
多摩川沿いを自転車で疾走する
いまにも千切れては膠着する
あられもなく痛々しい
この星の
この国の
この砂の
歴史ひとつは
饒舌な川面に逆らうように
じぶんの城砦から草いきれを貪り
上へ上へと勢いづくスギナやハコベたちの顫動と重奏
素気ない残月や
一度きりの向かい風のなかにさえも
ボクらの言葉(ほんね)は
ピリピリと毛羽立ち
乾いた




追る権化の朝に
帰れば細胞の解放過程が始まるだろう これから眠るだけの
ボクの誰何もハンズアップといわれるだろう


しっぽの生えた
たあいのない砂の一粒
あの本の中に
言葉の行軍の奥深くに
敷きつめられる夢のかけらのようだった








自由詩 ボクらのバラエティーブック Copyright 乾 加津也 2011-03-23 18:04:33
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