日の丸の旗 ーSAVE JAPANー
服部 剛
三月十一日・午後二時四十六分、彼はデイ
サービスの廊下でお婆さんと歩いていた。前
方の車椅子のお爺さんが「地震だ」と言った
次の瞬間、壁の絵は傾き、施設は揺さぶられ
る海上の船となった。都内で働く妻と鎌倉の
実家に電話連絡で無事を確認し、彼は安堵の
溜息を漏らした。
テレビ画面に映る仙台の街を津波は覆い隠
し、流されるいくつもの家が炎を上げていた。
お年寄りをそれぞれの家に送る車が国道に出
ると信号は消えて大渋滞となった。仕事帰り
のコンビニの棚に食料はすでに姿を消し、ガ
ソリンスタンドは何処も給油待ちの車が、列
を成していた。
震災から六日となる今日も計画停電となり
職員は暗がりで対策を語らい、明かりの消え
た街を家路に着くと、死者・行方不明者一万
五千人を伝えるラジオのニュースの流れる暗
闇の机の上に蝋燭の灯は、丸く光っていた。
その机の上で原稿用紙を広げた彼は、長い間
忘れていた思いの湧き立つのを感じるままに
一篇の詩を書いた。
「 日の丸の旗 」
もし、街の明かりが消えてしまったら
自らが周囲を照らす、明かりになろう。
もし、水道の水が消えてしまったら
自らが人々の間を流れる、水になろう。
もし、店の棚に何も無く、空腹を覚えたら
停電の部屋の暗闇に灯をともし
津波に家も妻も流され、屋根に必死に掴まり
幾夜も明かして漂流した人や
ようやく連絡が取れて再会し
互いの顔を見た瞬間に涙の溢れるまま
抱き合う親子や
横並びの小さいベッドで栄養の不足した
乳児達の寝顔や
今夜も氷点下の被災地で、布一枚を身に纏い
震える独りの老人を思おう・・・
SAVE JAPAN
今こそ、日本中の人々が声を揃えて
壊滅した故郷で泣き崩れる
無数の被災者に、無言の声援を祈る時
それぞれの日常の場面の中で
長い間忘れかけていた愛国心は甦り
震えるこの胸に、国の旗は刻印される
拳を握り、大地に立ち
僕等はじっと明日の地平を見据えよう
古の和の耀きで燃え出ずる
あの、日の丸を