レクイエム
砂木

朝 出勤すると 数名の社員が玄関にいる
余震のため建物の中に入らず待っている
そろそろいいんじゃないの いいよね
いざ 建物の中に働きに行く 
普通の会社の建物が凶器になる
リストラ 賃金カット 不況でも意地で
暮らした生活の場だ
仕事をくれる限りは働こうじゃないか
しかし ガソリンがね

ガソリンスタンドの前は大行列
の果てに 売り切れの看板
店の棚には 商品がまばらで
いつ 肉が入ってくるのかわかりませんよ
お客さん 冷凍しておいたら のささやきに
つい 買ってしまった なかなか店も回れないし
買いあさりたい欲望が湧きあがるのだが
買いたくても 商品がないし 大金もない 

昔はね うちから町まで歩くと二時間かかった
昔はね リヤカーに林檎を積んで
歩いて市場に行って 林檎を売ったもんだ

なんにもない時代の足で暮らした時代の話を
しきりと思い出し
やってやれない事はない
しきりと自分を励ますのだが

いい気になるな 地震め
小さい島国だと思って馬鹿にして
あんなに美しかった海をめちゃくちゃにして
友達と遊びに行った砂浜をズタズタにして
そんなことが許されると思ったら大間違いだ

私が死んで いけないわけではない
けど 死にたくない 絶対だ
死にたくなくて 死んだ人 人 人の群れ

地震には負けても 
負けても負ける気はない 
力のない はったりばかりでも
でも いい 今は いい




自由詩 レクイエム Copyright 砂木 2011-03-15 20:23:39
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