【批評祭参加作品】 現代ホラー映画50選(3)
古月

(2)のつづき


21.『ソウ』
これはさすがに説明不要だろうか。
ソリッド・シチュエーション・スリラーという単語を流行らせたり、ホラーファンでもきついレベルのグロをバンバン見せるくせに全国の東宝系劇場で普通に大規模ロードショー、シリーズ完走までやりやがった脅威の怪物映画。まあ、シリーズ後半はちょっとグダグダしたけど……。
その人気ゆえに、レンタルショップの棚に並ぶ「ソウもどき」のパチモン映画の数もダントツ。『JIGSAW』シリーズや『パズラー』などの、通称「白系」と呼ばれている(とかいないとかの)白を基調としたパッケージ群。これは見ているだけでバカらしくなってきて、小さな悩みとか吹き飛ぶレベル。中でも『SAW ZERO』なんかはタイトル的にギリギリすぎるだろ、と思ってこっちが心配になってくる。ついでに余談だが、パチモンの代表である『JIGSAW』(無印)は、なんとジャーロ映画らしい(!)ので、これは見てみたいね。
と、壮大に脱線したところで『ソウ』の話なのだが、単純なストーリーなので、まあ、あんまり言うべきこともなかったりする。
謎の殺人鬼『ジグソウ』が、人生を無駄に生きている人間を誘拐しては「生きて明日があることがどれだけ素晴らしいか」を分からせるために超残酷なゲームをやらせるというお話で、主人公である被害者が生き残るために知恵を絞ったり、深刻な決断を迫られたり、多大な犠牲を払うのが見どころ。
始めは単純なデスゲーム映画かと思われた本作だが、シリーズを追うごとにジグソウを追う刑事やジグソウの後継者争いなどのドラマが複雑に絡み合う群像劇の様相を呈し始める。個人的にはこの群像劇の複雑さ(一年経ったら前作の内容なんか覚えてない!)こそが、映画の失速の原因になったと思っている……っていうかみんなそう思ってるよね。
そしてこの映画、ホラーファンだけでなく、ミステリファンにこそぜひ観てほしい。多少のグロは我慢してでも観る価値が十分にあるので。少なくとも『ソウ3』までは必見。ちなみに『ソウ1』はグロ度低め、『ソウ2』は少しばかり痛い描写が多く、『ソウ3』はシリーズ最高レベルのグロ度を誇るので注意。
あと、一作目にはドラマ『LOST』のファンには思わずニヤニヤしてしまう嬉しいキャスティングがあるので必見(吹き替え声優も同じ!)。


22.『ゾンビ』
ジョージ・A・ロメロが『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を撮るまでは、映画における「生ける屍」はブードゥ教のそれか、オカルトあるいはSF映画の「理由あって蘇生した怪物」でしかなかった。だが、ロメロの映画をきっかけに、「理由なく蘇生し、人を食う」シンプル・イズ・ベストな「生ける屍」、ゾンビ(モダンゾンビ)が誕生した。
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』はそれまでの映画における常識を幾つも打ち壊し、「死者が生き返って人を襲う」という荒唐無稽な設定を用いながら、リアルで絶望的な篭城戦を描いた。以降、この設定を継承したゾンビ映画が増え始める。そして、それから10年、遂にロメロ自らによるゾンビ映画の決定版『ゾンビ』が作られた。
消費社会への皮肉などとも言われる本作の舞台は「いままさに崩壊しつつある世界」。ゾンビは世界中で爆発的に増え始め、ニュースではその原因を論じる番組が放送されている。数少ない生存者は安全な場所を求め、必死のサバイバルに旅立つ。
『ゾンビ』の見どころはなんといっても中盤以降のショッピングモールだが、個人的には前半が気に入っている。日常にゾンビが溢れる世界に人々は早くも慣れはじめ、楽しそうにゾンビ狩りをする「のどかな風景」も見られる。モラルは完全に崩壊して、非日常が日常になってしまっているのだ。
生存者一行がたどり着いた巨大なショッピングモールには、終末世界ではもはや不要なぜいたく品が溢れていた。最初こそタダで買い物し放題!ラッキー!と喜ぶ一行だが、すぐに空しくなる。まあそうだよね。そんなのあっても仕方ないし……。
後半、無法者のバイカー集団の襲来によってモールの封鎖が破られてから、ゾンビが一気にショッピングモールになだれ込んでくる様はなんとも皮肉だ(ゾンビは思考せず、ただ生前の習慣に従って行動する)。
映画自体は終始一貫してアッパーなテンションで展開するものの、空気は徹底して陰鬱である。絶望的な未来図しか描けない状況で刹那的な快楽を貪っても空しいだけ……というシビアな現実のどん詰まり感が、じわじわと心を蝕む。一応のハッピーエンドと言えなくもないラストも、うら寂しい。
この映画によって近代ゾンビ映画の基礎は築かれ、以降はアメリカだけでなく海外でも精力的に亜流ゾンビ映画が作られていく(特にイタリア)わけだが、悲しいことにロメロ自身ですらも、未だ『ゾンビ』を超える傑作は生み出せていない。
『ゾンビ』の続編である『死霊のえじき』は予算の関係で理想とは程遠い出来になり、それに続く『ランド・オブ・ザ・デッド』『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』『サバイバル・オブ・ザ・デッド』も、いずれも傑作とは言い難い出来である。まあ、ファンとしてはロメロのゾンビが見られるだけで満足なので、これからも精力的に作り続けてほしいと思うが。
本作のリメイクである『ドーン・オブ・ザ・デッド』は、ザック・スナイダー監督による快作で、物語の骨子はだいたい同じであるものの派手なアクションに重点を置いたサバイバルアクション映画になっている。冒頭のシーンはある意味ホラー映画のタブーであり公開当時は衝撃を与えたが、いま見るとちょっとパワフルすぎて笑ってしまう。それでもスピード感溢れる演出と容赦ない暴力、2004年の技術で作られた終末世界の様子は一見の価値あり。ゾンビが走るのは公開当時そうとう賛否両論あったが、映画の出来がよかったこともあり、ロメロゾンビ原理主義者の旗色は悪かったと記憶している。
なお、ロメロのゾンビ映画には、タイトルを見ると「これは続編かな?」と思わせる映画がいくつかあるので、ついでに整理しておきたい。
ダン・オバノンの『バタリアン』は一応『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の続編らしい。
ルチオ・フルチの『サンゲリア(ゾンビ2)』はタイトルを見ると『ゾンビ』の続編みたいだが、続編ではない。
アンドレア・ビアンキの『ゾンビ3』ももちろん続編ではない、のだが、『ゾンビ3』は歴史に残る怪作(ゾンビのチームワーク! マザコンによるママの乳房食いちぎり!)なので、ゾンビファンなら絶対に必見。
『死霊のえじき(原題:(Day of the Dead)』のリメイク『デイ・オブ・ザ・デッド』はスティーブ・マイナー監督の手腕もあり普通に面白い。
レンタルビデオショップの棚でその続編のふりをしている『デイ・オブ・ザ・デッド2』は超大型地雷なので注意! タイトル的にもDVDジャケット的にも(マジで詐欺レベル!)続編と誤解しがちだが、ロメロとは何の関係もない「自称続編」の大駄作である。ファンビデオ?


23.『ゾンビランド』
ゾンビウイルスの爆発的感染によって『ゾンビ合衆国(ランド)』と化してしまったアメリカを舞台にした、サバイバル・ゾンビ・コメディ。
全米ボックスオフィストップ10初登場第1位を皮切りに、『ドーン・オブ・ザ・デッド』『ショーン・オブ・ザ・デッド』を抜き、とうとう歴代ゾンビ映画史上、興行収入ナンバー1の座に輝いたらしい。すごいな。
引きこもりのオタク青年コロンバスは、故郷を目指す道中で出会ったタフガイおやじのタラハシー、ウィチタとリトルロックの詐欺師姉妹と共に、ロサンゼルス郊外にある遊園地・パシフィック・プレイランドを目指すことに。姉妹が言うにはそこはゾンビのいない楽園だというのだが……。
全編通してポップでコミカル。思わずクスッとくるナンセンスな笑いと、時には深いことも言ってみたりするしゃれた会話が山盛りの痛快なロードムービーに仕上がっている。
映画が始まっていきなり度肝を抜かれるのが、タイポグラフィのセンス。オープニングクレジットや映画の随所に挿入される"生き残るための32のルール"など、字幕を映画の中に取り込みアートにする手法は今や斬新とまでは言いにくいが、この映画では最高にハマっていて、それだけで笑える。
サバイバル映画とはいいつつも、スリルやピンチは少なめ。彼らは普通のゾンビ映画のキャラクターみたいに、ゾンビにビビりまくったりしない。ゾンビランドでの生活に適応し、彼らなりにゾンビ殺しをエンジョイし、生き残っているのだ。武器は山盛り、弾切れの心配もなし、タラハシーが余裕綽々でゾンビを退治していく場面は死者への尊厳などかけらもなく、ゾンビには悪いけど胸がスカッとする。
映画中盤ではスペシャルなゲストとして、なんと「あの人」がカメオ出演! てっきりゾンビ映画関連の有名人かと思ったらお前かよ!という感じで爆笑(吹き替えの声優はやっぱり安原義人!)。
とにかく難しいことを考えず、ゾンビ遊園地と化したアメリカを楽しみたい、ゲーム感覚でゾンビ映画を楽しみたい、思いっきり爆笑したいという人向け。
現在は続編の企画が動いており、キャスト続投で3D映画になる予定だという。
予備知識として、主人公で語り手のコロンバスを演じたジェシー・アイゼンバーグが『ソーシャル・ネットワーク』でマーク・ザッカーバーグを演じたことは、覚えておくとちょっと得するかも。
しかし食べたいなあ、トゥインキー。日本では売ってないのか?


24.『チャイルド・プレイ』
おなじみチャッキーが大暴れする映画。
子供向けのおもちゃ、グッド・ガイ人形に殺人鬼の魂が乗り移り……という魔術的な背景も胡散臭くてよい。一作目の監督はトム・ホランド。『フライトナイト』とかマジ傑作すぎて生きるのが辛いと幼少期には思っていた。
チャッキーがひたすら殺すだけの三作目までは文句なしの傑作なのだが、四作目『チャッキーの花嫁』からは極端にコメディ路線にシフトしてしまい残念。子作りなどの人形らしからぬ行動が笑えるような笑えないような……。続く五作めの『チャッキーの種』ではついに楽屋オチのような作風になり、迷走したあげく製作が止まってしまった。ぶっちゃけうるさいことは言わずにブラッド・ドゥーリフの怪演を広い心で楽しめばいいじゃん!とも思うのだが、どうもしっくりこないのが本音。
この映画の面白さは、子供が「人形が動いたよ!」と言っても大人は「はいはいそんなわけないでしょ」と取り合ってくれず、孤独な戦いを強いられるところ。なので、そういう心理的な要素を排除してお気楽路線になっても、別にチャッキーが可愛いのは最初から分かってるのでやりすぎてるよ、ということなのね。
どうせ主人公は人形だし外見的劣化も心配ない、というわけで、いま個人的に最もリメイク希望。


25.『ディセント』
問答無用に怖い洞窟スリラー。個人的にはゼロ年代最恐ホラーランキング1位。
監督は狼男サバイバルホラー『ドッグ・ソルジャー』のニール・マーシャル。
いやなことなんて忘れちまおうぜ!ということで「洞窟探検で女子会」という斬新なリフレッシュプランを実行する仲良し6人組。
誰も知らない未知の洞窟を探検!というわけでテンション上げて入っていくわけだが、さすがに洞窟は恐い。洞窟ファンの人、閉所恐怖症の人、くまのプーさんがハチミツ食べ過ぎるファンの人、みんな必見の超リアルなスリルがここにはある。だが、本当の恐怖はこんなもんではなかった! 映画後半戦、洞窟の奥深くにはなんと……!!!
こっからはネタバレになるので言わないが(っていうかもうかなり有名だから知ってるかもしれないけど)、絶対に度肝を抜かれる恐るべき超展開が待っているので今すぐレンタルしてこよう。下手に検索するのだけは絶対にやめて!
エンディングのあり方も含めて全てが美しい、超ハイテンション映画。グロイの苦手な人は回避してもいいけど、画面がほぼ暗闇なので、個人的には案外いけると思うのでチャレンジしてみてほしい。
続編の『ディセント2』は、つい最近ようやく見たが、まあまあ、まあまあかな!
便乗作品に『ディセントX』、『ディセントZ』なるものがある(またタキコーポレーションだよ!)が、そっちは全然関係ないパッケージ詐欺映画なので注意。
だが、B級ホラーを見慣れた人には『ディセントZ』のほうは思わぬ収穫だったので推しておく。


26.『トレマーズ』
砂漠の町パーフェクションシティを舞台に、グラボイズと呼ばれる地中を高速で移動する人食いモンスターと人間との死闘を描くヒットシリーズ。
よく分からない人は、『ジョジョの奇妙な冒険』第三部のゲブ神のンドゥールのスタンドを想像してほしい。だいたいあってるから。
シリーズは現在四作目まで作られており、回を追うごとに主役コンビが一人ずつスライドしていく構成が面白いというか、低予算の寂しさというか。
『1』の主役はケヴィン・ベーコンとフレッド・ウォード(脇役でマイケル・グロス)。『2』の主役はフレッド・ウォードとマイケル・グロス。『3』の主演はマイケル・グロス。『4』の主演もやっぱりマイケル・グロス! まあ俺はマイケル・グロスがいちばん好きだけどね! つ、強がりじゃないし!
視覚は衰えているが聴覚が異常発達している地中の怪物を相手にどう立ち向かうか!という部分がこの映画の醍醐味なわけだが、この映画の本当の面白ポイントは、街の住人のなんともいえない個性にある。とにかく見てもらわないと分からないと思うが、みんないい人なのよ! すごいノンビリほのぼのしていて、ギリギリの状況でもジョーク!的な。そういう軽いノリのライトなモンスター・パニックなので家族で見ても大安心。そういえば最近テレビでしなくなったな。前はゴールデンタイムに「またトレマーズか!」っていうくらい何度も放映してたのに……。
ちなみに米国では『トレマーズ3』の続編に当たるテレビシリーズ(主演はもちろんマイケル・グロス!)も製作されているが、不幸にして日本ではソフト化されていない。ユニバーサルさん早くして!
しかたないのでマイケル・グロスファンは『紀元前1億年』(やばいレベルの低予算映画)でも見て気長に待とう。


27.『28日後…』
またしてもゾンビが走る!じゃなかった、感染者が走る!というわけで、ロンドンが死の都になる映画だが、これはゾンビ映画ではない。レイジ(憤怒)ウイルスという、人間を凶暴化させるウイルスに感染した人間の恐怖を描く映画である。
実質的にゾンビと変わらないので世間では便宜上ゾンビ映画に分類されているわけだが、まあ、ロメロには『ザ・クレイジーズ』という狂人の群れをゾンビみたいに描いた映画もあることだし、その派生だと思えば立派にゾンビ映画カテゴリでいいんじゃないかな。
ストーリーは実際イマイチなのだが、荒廃して隔離された市街の様子など、見るべきものは多い。ゾンビ映画の大半は低予算なのでどうしても限定された状況を舞台にすることが多いが、さすがダニー・ボイルというべきか、もう、思いっきり都市が舞台なのね。ナイスディストピア!
ゾンビ映画の楽しみは、食人や葛藤やサバイバルだけではない。正直言って、ゾンビ災害によって世界がどのように変化したか?という近未来シミュレーションとしての楽しみがかなりある。なので、こうした映画が作られることに我々は感謝しなければならない。
ちなみに続編の『28週後…』のほうが圧倒的にスケールがでかくて面白いので、こっちを強くオススメ。別に『28日後…』を見て予習しておく必要はないので、気が向かなければこっちだけ見てもよい。


28.『バタリアン』
「脳みそをくれ〜」でおなじみ。ゾンビが全力疾走! それまでの「ゾンビはのろのろ歩く」という既成概念を思い切りぶち破った、ダン・オバノン監督の名作ゾンビ映画。
とりあえずゾンビの造形が個性的で、単なる動く死人ではない、おもしろゾンビのエポックメイキングである(はず)。
感染方法が軍の薬品というのも「国家の陰謀」って感じで刺激的だし、ゾンビを焼いた焼却炉から出た煙が雲になり、雨が降ることで被害が拡散するなどのプロットも天才的だと思う。絶望的な状況を引っ繰り返す起死回生の一手としての(?)衝撃の結末も含め、全体的に見て、『バイオハザード(テレビゲーム)』に最も影響を与えた作品なのではないだろうか。
それにしてもこの映画、原題は『Return of the Living Dead』で、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の続編なのだが、よくこれだけぶっ壊したな……続編とか言って……と思う。結果的にゾンビ映画史上に残る名作になったけどね。
ちなみに『バタリアン2』は続編というかリメイク、リブートに近く、三作目『バタリアン・リターンズ』はロマンスの要素を前面に押し出した内容で『死霊のしたたり』に似ている(監督はブライアン・ユズナ!)。
時を経て製作された『バタリアン4』『バタリアン5』は続編製作の知らせを聞いたときは大歓喜したものの、蓋を開けてみればシリーズの看板に泥を塗る最低の出来! ただ、『バタリアン4』はチェルノブイリロケを敢行したという恐るべき事実があるので、そこはちょっと評価したい。ただ、チェルノブイリロケが作品に全く貢献していないのが惜しい……というか、お前バカだろ……って感じ。まあ、そこがいいっちゃいいんだけどね。


29.『ハロウィン』
白いハロウィンマスクとツナギでおなじみの「ブギーマン」ことマイケル・マイヤーズが活躍するスラッシャー映画。
『3』だけは全くの無関係なので注意。マジで見なくてもいい。
物語はざっくりといえば、精神病院を脱走したマイケルが血縁関係にある人間を狙って殺しまくり、それを精神科医のルーミスが追うというもの。とはいえ物語の主人公はマイケルではなく、狙われる側、ローリー・ストロードなんだけど。
この映画は「ハロウィンに子守のバイトをするティーンエイジャーが殺人鬼に狙われる」という設定なわけだが、この「子守」というのが案外ポイントで、登場するふたりの子供が癒し系でかわいい! この無機質な映画の中で、二人のコミカルな振る舞いが一服の清涼剤として機能しまくっている。
物語的には『1』と『2』がセットで、『4』〜『6』もセットみたいな感じ。その後は『ハロウィンH20』や『ハロウィン・レザレクション』などの後日談も製作されている。20年経っても気が休まらないなんてローリーも大変だわ。
最近ではロブ・ゾンビ監督によるリメイク版『ハロウィン』も作られており、これは単なる焼き直しではなく再構築で、かなり出来がよい。
オリジナルと最も違うのは、本来は「ブギーマン(不気味な男)」としてキャラクター性を排除されていたマイケルに人間としての過去やドラマを与えている点。少年時代に何があったのか、精神病院でどう過ごしていたのか、という部分を描くことによってマイケルの印象を「単なるモンスター」から「執念の塊」へと大きく変えている。これはリメイクのあり方として考えればアリだろう。
なお、リメイク版の続編『ハロウィン2』もロブ・ゾンビ監督によるものだが、こちらはさらにブギーマンのオリジナルキャラクターを破壊する出来で、さすがに賛否両論があった。個人的にはそれよりもスラッシャーを逸脱して幻想に大きく踏み込んだ演出が気になったかな。とはいえ、だからといって駄作という訳ではないので、とにかくそのへんは見て判断してほしい。


30.『パンズ・ラビリンス』
最近では『ブレイド2』『ヘルボーイ』などの一般向け映画も手がける下水道大好き監督ギレルモ・デル・トロの名前を一気にメジャーにした映画。
この映画を詳しく語りだすとクソ長い批評が一本余裕で書けてしまうし、それは重大なネタバレになるのでここでは控えめに紹介するが、最初に言っておくとこれはホラーではなく、たぶんファンタジーだろう。
内戦で父親を亡くした少女オフェリアは、再婚する母親に連れられて、冷酷な独裁主義者・ビダル大尉のもとで暮らし始める。だが、オフェリアは新しい父親にどうしても馴染めず、オフェリアもまた父から「母のお荷物」として疎まれていた。周囲にはいつも戦争があり、多くの人間が日々死んだ。彼女は次第に現実から目をそむけ、おとぎ話の世界に逃避していくようになる。そんなとき、オフェリアの前に本物の妖精が現れる。妖精はオフェリアを牧神(パン)の元へと導く。牧神は言う。「あなたこそは捜し求めていた地底の王国の王女です」と。そしてオフェリアは現実と非現実の間を彷徨する「王女になるための三つの試練」に挑むことになる……。
この映画はそもそも物語の中でおきていることが「オフェリアの妄想(何も起きていない)」なのか「まぎれもない現実(すべてあったこと)」なのか、で解釈が大きく変わってしまう。そしてまた、第三の解釈として……と、これは言わずにおくが、とにかく周到に伏線や推理の材料が散りばめられており、何度観ても楽しめる。
ギレルモ・デル・トロの描き出す幻想の世界は非常に絢爛かつ精緻で退廃的、惚れ惚れするほど美しい。この圧倒的な美によって構築された悪夢的な世界を見るというだけでも、この映画を観る価値はある。(妖精国の描写は後の『ヘルボーイ ゴールデン・アーミー』にも通じる)
オフェリアの勇気ある冒険と胸の熱くなるクライマックスは、心の深いところにずーんと来る。


(4)につづく


散文(批評随筆小説等) 【批評祭参加作品】 現代ホラー映画50選(3) Copyright 古月 2011-03-05 20:51:44
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
第5回批評祭参加作品