起算の町
三条麗菜

人は誰も
起算の町を持ちます

流されるまま生きて
それを誇りにしていた時代も
体の衰えと共に
終わりを告げるのでした

とらえどころのない世の中だから
漠然としていながらも
せめて胸を張って生きましょう

そんな言葉もあっけなく
砕かれるくらい
生活に追われてしまうのです

生きるということが
心のありようではなく
まず衣食住であることを
思い知る日が来るのです

遠くで聞こえていた雷鳴なのに
ふと気づけばすぐ近くに
稲妻が走り落雷が起こり
恐ろしさのあまり
地面に突っ伏してしまい
過ぎるかと思えばいつまでも
過ぎないのです

せめて賢く生きたい
美しくはあらずとも
人に優しくとは望まぬとも

そして今の暮らしのある町は
起算の町となるのです

数え方はゆっくりと
指さしながら
ひとつひとつ
忘れないように
間違えないように
取り乱さないように
焦らないで

昨日までの数を
今日も思い出せるように
心からの祈りを捧げて
いつまでも
いつまでも
死ぬ時までも
続けられるように

知ることをくりかえし
得ることをくりかえし
失ったものをできるだけ
再び手にするために

起算の町の地図を
心の中に描いてゆきます
数字は大きくはっきりと
そしてどの文字にも
わずかな希望を込めて


自由詩 起算の町 Copyright 三条麗菜 2011-02-27 01:11:49
notebook Home 戻る