白に沈む
涼深

白、という色は感覚を鈍らせる。



粉雪が踊る
大地も空も空気さえも、息をひそめた世界で
ただ、そこに在るというだけで
乱暴なまでに視線を奪う
ただ一人の愛しい人

瞬きすら惜しく
魂がただあなたへと向かっていくことを止められない


背後にあった二対の足跡も
目の前にあった一対の足跡も
深く深く沈んでいくというのに

白に閉ざされた
今、この時が永遠に続くことを願った


春の柔らかな陽だまりも
夏の煌めく海も
秋の燃える山も

冬の前ではなんて無力なのだろう


腐食してく檻と
朽ちていく鎖を知りながら

息をひそめていた



不意に
強い風が吹き抜ける

雲の隙間から光が降り注ぎ
あなたは空を見上げた


「時」は決して止まっていなかったのだと
「命」は流れ続けていたのだと
嘲笑う白銀


末端神経が痛みを訴え
心臓の軋む音がたてた


二人の間に粉雪が舞い上がる



白、という色はすべてを奪い去るのだ。







自由詩 白に沈む Copyright 涼深 2011-02-25 23:06:10
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