庭 / ****'99
小野 一縷


ねえ 何を数えているの?
そんなにも 緑が眩しい庭で
蟻たちが運ぶ 死んだ虫の数?
オジギ草に悪戯しているのは
無邪気な蝿
チューリップの首を 切り落としたのは
ぼくだよ
雑草を刈るついでに 鎌で一閃
真っ直ぐ立った茎だけは
ストローみたいで 滑稽だった


いつか 育ててた
お尻みたいな 二匹の多肉植物
その枯れた体は 風変わりな オ**コみたいで
笑えたっけ


ミドリガメが死んでいた
セキセイインコが死んだよ
デメキンは白く腐って
あの犬は保健所に連れて行かれた
サンショウウオは干乾びて
ハムスターが死んだよ
文鳥は逃げたまま
モルモットが死んだよ 
自分の糞と小便にまみれて


八月は嫌いだ
やっと 大切に思うことができた
白い猫が死んだから
ほんとに くそ暑かった日
ぼくの猫が燃えて しなびた煙になって
くそ青い空に 昇ってゆくのを一瞥して 
後はずっと 砂利の中の一つの石だけを ただ見ていた


無数の蝉
余命少ないあいつらは キチガイのように騒がしい
いつか つまらない盗みで捕まったのも 夏だ
夏は嫌だ バイクを盗られたのも夏だ うるさい


そう
何をやった後だって
弱々しさや苦しさには みんな
優しかった(ただ ぼくに似た連中を除いて)
でも どれほどそんな嘘をついても 
ぼくだけは騙せやしない
だけど 苦しくない  やましくもない
ここに 何も罪悪感や 後悔なんてない
明日でも今日これからでも
誠心誠意 精一杯努力さえすれば それでいいから 
結局は誰だって それで頷いてくれるんだろう?
こんなぼくに 似た奴らを除いては


「これで終りにする」
ぼくは そんなこと言っていたんだね
きみは吹きだして 少し笑った
その後 ぼくがとっさに出した言葉も
今じゃ 嘘かどうかも忘れたよ
(思い出したくないことだから 大体の見当はつくけど)
(そのテープ もう捨ててくれないかな)


ただ
悲しも悔しくもならずに 眩暈だけする
あの息苦しさを ぼくは何度も味わって 何度も忘れて 
やがて麻痺してしまった その感触を思い出して
こうやって少しは 具合の悪くなるふりをしてみる
それでいいんだろう?
騙してる訳なんてない ぼくの勝手な仕草
でも 少しずつ そんなふりが 下手になっても 
幾らだって ほかにも手はあるんだ
そうやって ぼくはやってきた


気にくわないツラをした 木彫りの人形を
水を撒いた砂場に擦りつけて 放ったまま
白いマリア像に 何を落書きしたんだっけ
彼女は何一つ 言わなかった
ただ彼女が 泣いているように思えて
かわいそうになった
けど
実際 かわいそうなのは ぼくなんだろう?
それを彼女は知っていて
冷たくすべすべした 肌触りのまま
ぼくの左手の中で 決してその表情を変えやしなかった
それが 悔しかった
あの時
彼女を地面に叩きつけて 粉々にしていれば
ぼくはこんなにも平凡で
つまらない奴に ならずに済んだに違いない


何も数えてなんかいないよ
探しているんだ とっくに陽の暮れた庭で
捨てたままの 醜い像
ぼくの中の処女性 その純真を



自由詩 庭 / ****'99 Copyright 小野 一縷 2011-02-25 20:38:08
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