恋の化石
三条麗菜

命を失ったものが
石へと変わる年月は
とても長いのですが
でもいつまでも命を偲ぶ
姿ではいられないのです

時というものは
風に流される木の葉さえ
化石に変えてしまいます
波に打たれる切り立った崖に
しがみついている岩を砕けば
そこには波をものともせずに
揺れていたものたちの記憶が
白く化して残されているのです

誰もいない平日の博物館を
歩き回り
あらゆることが時の
記録であることに
あらためて気づきます

それは天から見下ろす
記録者の意志のようで
あらゆる失われた命はその時
化石へと変わる権利を
得るのです
だからそれは
誰も妨げてはいけません
その道を進むことは
命をよみがえらせるよりも
よほど尊いものなのです

そんな道を
静かに歩みはじめた
あなたと私の関係もきっと
いつの日か石化し
半透明で美しい
化石になることでしょう

でも最後にもう一度だけ
会いたかった
あなたにもう一度だけ
会えばこんなことを
考えずに済んだかもしれません


自由詩 恋の化石 Copyright 三条麗菜 2011-02-22 23:45:04
notebook Home 戻る  過去 未来