サーカスがやってきた / ****'04
小野 一縷

頭の中で 鳴るんだ

音を飲み込む音 音を噛み砕く音
音を叩く音 音を破る音
音を切る音 音を捻る音
音を削る音 

それらが それぞれ七色に発光して
カウントダウンが始まる
サーカスの開幕だ

真鍮喇叭の音が球体になって
その表面を虹の歪みが被って瞬時に発光する
暗黒に一個の存在が灯る
数式の上での答えのように 確実に 輝く
その輝きは連続する
脳裏を照らす スポットライトだ

啜る 音を耳から啜る
鼓膜に何千と何万と針の雨となって注がれる音の洪水
一枚舞落ちたミクロの枯葉は 粒子状の文字だった 
それらは 内耳から目蓋に照射される 
吸う 光を 文字を 目から吸う
映し出される映像は言葉の流れる物語だった

そのタイトルは 「脳内サーカス」
見世物小屋で行われる脳実験
被験者は こころと脳ミソのフリークス

言葉の曲芸使いは ジーザスのコスプレ宗教詩人
猛獣を手懐けるピエロの狂笑 獣姦は馬に限る
空中ブランコの最大の見せ場は失敗による転落事故 
砕けるパペットたちの顎と前歯 人間が転落する様を笑い過ぎて
失語症パントマイマーは女の喘ぎ声になによりエレクト
腹話術師は当然人よりダッチワイフ至上主義一人二役

観客は皆 遠慮がちに笑う

遠慮せず もっと笑えばいいのに
ナイフ投げの的役少年はそう想う
我慢せず もっと笑えばいいのに
全身に切傷を負っている

ぼくの童貞を奪った団長は いつぼくを見ても笑顔だよ
キミはもっと笑えばいい
こころを開くこと その針の痛みは 一瞬だ
キミはもっと笑っていい 素直に 気持ちよくなりなよ
キミの個性 キミの心地よさ 性感に 目隠ししないで  

快楽は永い
一瞬の深さに於いて快楽は時間の経過を重くする
それは理屈じゃない 反応だ
笑うな これは事実だ
ここは分かってるアンタだけニヤリとしてくれればいいんだ


脳内サーカスの入口には こんな看板がある

「身体反応に勝る自我をお持ちの方は年齢に限らず
 当サーカスの催しは楽しむことが出来ません。
 今までのデータ、統計がそのように示しております。
 故にサーカス園内への立ち入りはお薦めしません。」

あしからず






自由詩 サーカスがやってきた / ****'04 Copyright 小野 一縷 2011-02-22 18:42:05
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