カット!
純太
カット!
違うんだな そのコーヒーカップに入ったスプーン
もっとクルクル回して
ユダヤ人ならもっとクルクル回すんだよ
そう 頭の中で目の前の恋人のことも考えるし
干してきた白いシャツが乾いたかどうかも
もっと稼いで高級車に乗りたいとか
そんなこと考えながら回すんだ
回しながら演技してる彼女を見るんだよ
これでいこう
いいね?
◆
カット!
違うんだな 眉間に皺を寄せるより 目だな
鬼のように睨むんじゃなくて
人間が怒った時そのものの顔ができないかな
うん なんと言うかな
鬼になっちゃいけないんだよね
鬼の気持ちで怒ったら鬼になるからさ
鬼は赤いし青いし動脈みたいだけどさ 慈愛がないから
だから君は人間として睨むんだ
相手をされど深く想うんだ
これでいこう
いいね?
◆
カット!
違うんだな
他人の家に来てスキヤキごちそうになってる時
そうやってオープンに素直に食べちゃダメなんだ
しかし素直さは大事だよ
他人の家に訪問してるんだから
だからそうゆう時は
糸蒟蒻でメインの牛肉隠しながら鍋から取らなくちゃ
特に角度を考えて奥さんの目線を惑わすように
これでいこう
いいね?
◆
カット!
いいよいいよ とてもいい いいんだけど
彼女の横っ腹に手を当てたまんまで別れちゃいけない
これだけの夕日と穏やかな海が味方してるんだから
今や別れ話を出されるその時を迎え
悲しいし せつないかもしんないけど
最後の最後に彼女の腰にグッと手を当て直すんだ
俺はそこまで惚れているんだってことを手に籠めるんだよ
いいかい 最後の思い出なんて
男だから欲しいだろうけど
ほら 糸蒟蒻で牛肉隠すように素直さは押し込めるんだ
そのへんの なんて言うかな 卵で絡めるみたいなさ
そうゆう気持ち わかるでしょ
これでいこう
いいね?
カット!
オーケー よかったよ
人なんてね 行動の中になんか沈んでるんだからさ
あえて沈めたりもするんだからさ
それはそれはその通りやってもらうだけでも大変だけど
他人に思ったようにやってもらえない日常が
以外と感性作ってんのかもしれないよね