ヒーローズ (昭和編)
nonya


「明日の情」


優しく蛇行して
適度に濁って
こそばゆく岸を撫でながら
僕の根底を流れる
情の小川は

ときおり
なす術もない豪雨に
のたうち回って

ときおり
思いがけない土砂崩れに
堰き止められる

昨日の暴発を悔いても
今日は意地が邪魔をして
明日は
明日こそは謝ろうと
情の小川に言い聞かせる

そんなことの繰り返し







「大河マスク」


情の小川を
毛細血管のように
丁寧に張り巡らした
僕の世間体は

人の顔色と
その場の空気を
即座に読み取るのは
得意なのだけど

背後からの指の奇襲と
無責任な噂のつむじ風と
ゴリゴリの押しの圧力には
めっぽう弱い

どんな天変地異も
滔滔と受け流し
豊かに濁り続ける
大河のようなマスクが欲しい







「虚人の星」


大河は猛り狂い
山岳は泣き崩れ
森林は行き倒れ
海洋は押し黙る

馬鹿正直に
生きることができない
器用貧乏な
人は何も知らない

人の息が
いかがわしい雲となって
人の欲の
生臭い雨を降らせる

降りやまない欲は
地面に浸み込んで
内側からじわじわと
地球を喰らっていく

やがて
地殻の皮と
地核の芯を残して
地球は
虚ろな果実になるのだろう

虚ろな果実の皮の上で
もぞもぞと蠢く
人も
もちろん虚ろだ





自由詩 ヒーローズ (昭和編) Copyright nonya 2011-02-20 14:21:20
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