ダーザイン

海岸草原のみどり
はまなすの赤
萌たつ草の焔の中に
風露草のうすもも色

原生花園をぬけると
落ちていくように
空がりょううでを広げて
濃紺の海がひろがっている

道東の海は冷たくて
泳ぐ人は誰もいない

でも今日は暖かなひざし
透明なひかりがせかいを照らし
やさしい風がふいている

波打ち際には丸くて平らな石
灰色に濡れた線が
海と砂浜の間を地平線までうねっている

靴を脱ぎ捨てた彼女が
波打ち際で
水とたわむれる

打ち寄せては返る
巨大な鉛色のかたまりも
彼女の足もとにくると
やさしい静かな泡になる

カモメ
カモメ
ときどき凧のように静止して
ぼくらも時間をとめたように
肩をならべて座りこむ

海の轟きと
ひかりが
ぼくらをみたす

波打ち際に転がる大きな流木を指さして
彼女がたずねる

 あれどこからくるのかしら

 さあどこからくるのだろう

彼女のひざに顔をうずめる
やわらかくて
あたたかくて
目を閉じると
海の轟きと
彼女のぬくもりの中に
ぼくは
ぼくはすみやかに消える

 ねえ鯨こないかなあ

 さあどうかしら
 ねえ海近づいてきているみたいよ

潮が満ちて
灰色の線が
波打ち際の泡が
ぼくらのほうに近づいてきていた

彼女が集めた色とりどりの小石が
星座のように灯ると夜になった

風が冷たくなって
彼女は胸の前で掌をにぎりしめ
ふるえている
ちいさないのちのおもさで
ふるえている

彼女の肩を抱いて
その掌の中に
ぼくの手も握りしめられて
ぼくらはじっとふるえていた

星座がぎらぎらと輝いて
聖像画のようにぼくらを照らしだした
海の轟きの向こうに
あべまりあ
きしきしと星のきしむ音が聞こえる

 ねえ蛍とんでいるわ

ふりかえると
原生花園に
何万もの蛍の群れが
ひかりの標のように点灯しており
海風にのって
いっせいに空へと舞上がった

天上の星々と
蛍の群れと
ひかりの雲の中にくるまれて
握りしめていたぼくらの手を
彼女がそっと開く
すると
ぼくらの掌の中からも
無数の蛍が
金色のひかりを放って
舞い出てきた

ひかりを浴びて
彼女の顔も
黄金色に映える

 ねえ蛍とんでいるわ


自由詩Copyright ダーザイン 2004-11-02 15:23:14縦
notebook Home