ミツバチのアルツハイマー
和田カマリ

どんよりとした空
気分が優れない
早くワイパックスを飲んで
寝てしまいたいけれど
まだ仕事中なのでそれも叶わない

無個性なビルに囲まれた
谷川のような道を
僕の乗る営業車が
押し流されて行く

困ったことに
どこに向かっているのか
全然わからない
思い出せないのだ

会社に電話して
「僕どこへ行くの?」と
チームのOLに聞いてみようか

いやいやダメだ
変な人に思われてしまう
もうこれ以上軽蔑されるのは嫌だ

今は標識の矢印だけが頼り
とにかくまっすぐに行こう
そのうち思い出すかもしれない

たまに
神 戸 とか
京 都 とか
形が見えるけど

どういう意味だか
認識できやしない
状態を表しているのか
それとも何かの
名前だろうか

そもそも僕の会社は
どこにあったのだろう
僕はどこから来てどうやって
この道にたどり着いたのだろう

「ミツバチのアルツハイマー」
ふとひらめいて
こんな言葉を思い出した
働き蜂が方向感覚を失い
さまよった挙句に
死んでしまうって奴
農薬かなんかが原因だそうだが・・

突然に隣のレーンから
幅寄せしてくるやんちゃ者がいた

僕は危機回避の為ハンドルを切ると
敏捷な鮫のように交差点を左折し
本流から離れて行った

スローダウンしながらフウと息を吐いた
危ない所だった

脇道の景色もまた酷いものだった
蟻塚のような建物
僕達人間の昆虫的な
悪い側面が顕著に現れた
地獄のような街並

このように草も木もない
砂漠のようなところでも
人は生きなければならないし
現にこの俺も生きているのだけど

髪の長い女が一人舗道にいるのが見えた
目がシパシパしだした
僕は性的に興奮するとこうなる性質だ

三つ考えがあった
引き戻して本流に帰る事

ナンパして女の家に行く事

車で突っ込んで女をぺちゃんこにする事

一番に是非
女の家に行きたかった
きっと彼女のねぐらも
どこかの蟻塚に違いないだろうが
僕は証明したかったんだ
飽きるまで抱っこして

どんな地獄も好きなタイプの女となら
それもまた随分楽しいよって事を

だけど悲しいかな
実現できないんだ
声をかけたところで
悲しい結果になるに決まっている
ああ腹が立つ

俺は突っ込むことにした
右足に力を入れて
ベタ踏みでフンフンっと
俺のものにならないのなら
殺してやる!

その時視界に
環 状 線と書かれた
案内板が飛び込んできた
やはり意味フだったが
電撃的にもうこれ以上
行き先を悩む必要が
なくなる予感がした

僕はグルグル
グルグルと
鼻歌を口ずさみながら
案内板の矢印に従い
スロープを駆け登って行った
流れに合流した俺のする事は一つ
すいすいすいすい回遊魚のように
命が尽きるまで廻ってればいいのさ






自由詩 ミツバチのアルツハイマー Copyright 和田カマリ 2011-02-18 19:40:58
notebook Home 戻る