薬が効かない
三条麗菜

深い森の中に鉄路が走り
群青色の電車が
静かに進んでゆきます
鳥のさえずりを
消さないように

私は食堂車にいて
甘い紅茶をすすりながら
ゆっくりと流れてゆく
外の景色を見て
鳥たちの声に
耳を傾けます

それにしても
薬が効かない

この電車を作る
どの材料がアレルゲンなのか
分からないけれど
私は昨日も寝る前に咳込み
それがあまりにひどく
胃の中身がほとんど
出てゆきました

寝台車のシーツは汚れても
そう何度も替えてはくれません
私は薬をもらいましたが
まるで効かないのです
電車を降りるわけにも
いきません
それに昼間は別に
何ともないのです

この電車は静かに進むので
鳥たちとは友達です
窓にとまってつぶらな瞳で
私を見つめる鳥もいるのです
紅色や黄色の鮮やかな鳥たちで
とてもかわいらしい声で鳴きます

窓から流れ込む風で客席は
緑の香りに包まれています
柔らかな風に揺れる
木々のささやくような
声も聞こえてくるようです

なぜ私は森の中では
生きられない?
こんなに美しい森の中で

毎夜体を降り曲げ
髪を乱し狂ったようになる私は
この電車を降りたところで
生活することなどできないのです
私は人間の文明を身にまとっています
しかも美しくまとっています
生活するためではなく
ある種の美意識の表現として
身にまとっているのです
美意識だから捨てられないのです
それが分からない未開人たちが
窓の外から私達を指さし
まるで哀れなもののように見るのです
私は汚くなるのが
嫌なのです

たとえシーツ一面に
吐いたものが飛び散ろうとも

電車は進んでゆきます
電車の外を鑑賞する
私を乗せて
電車は進んでゆきます
電車の中で苦しみながら生きてゆく
私を乗せて

それにしても
薬が効かない


自由詩 薬が効かない Copyright 三条麗菜 2011-02-15 23:54:51
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