わたしたちの安心と釈放
ねことら
救済は必要とされてなかった。
必要なのは、ダメージだ。
別に、
マックフルーリーチョコでもダークモカフラペチーノでもよかった。
磨かれたフローリング。ひと一人分のスポットライト。
過剰な糖分を齧りながら、細い息を整える。
ごみごみした感情が、薄い油膜にちらばっていた。夜。
弛緩した月が浮かんで、あまったぶぶんの両端をきみと握り合っていた。
さみしさの導火線。囲まれたのは茨と茨と茨と茨。
砂糖でねちゃつくセカイのなかで、あるのは痛くて気持ちのいい甘さだけだ。
ちかちか氷の粒のような細菌が肺のなかで瞬く。
わたしたちは知覚過敏から逃れることができない。
たとえば明るいマクドナルド、たとえば暗いスターバックス。
1ビットの情報しか含まない会話を上手にツイートし、フォローする。
自殺は数珠つなぎで、まるでDNA螺旋みたいだね、て君が笑った。
マネキンだらけのメトロのベンチに座って、
ホームから順番待ちにとびこんでいく首のない影をみおくっている。
(ざんねんながらクーリングオフはききません。
(はくせんのうちがわまでおさがりください。
産み落とされてしまったのだから、わたしたちは生きつづけなければならない、
与えられたいちまいの制服にちいさな火を纏い、
はじめから訪れない誰かの迎えを待ち続けている。
幸福には、適度な睡眠と適度な暴力が必要だ。
きみは、まっすぐにわたしをみつめながらそんなことをいう。
そうして、わたしをやさしく殴る。
お腹、頬、背中、顔、やめてやめてと叫びながら、
わたしは嵐のあとに優しくきみに抱かれるのを待っている、
やさしくきみの強張りをわたしの湿潤に挿しいれてくれるのを待っている。
オレンジゼリーのうみでおぼれるような甘い痛み。
どうして、きみは殴りながらないてるの?
平板な夜が広がっていた。
デジタルフォトフレームに切り取られた空白。
なきつかれたわたしたちは、ひざをかかえ、ベッドの端で目をとじる。
いちばんたいせつなものが、いちばんこわいかおをしている。
そのことを、わたしたちはしっている。
目はそむけない。