1ビットにもみたない手紙
ねことら
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ケータイてふしぎ。緑やら黒やらちいさくひかる固まりを手にとりそれぞれの速度でひとは文字をなだれこむ。きみの分身をうすくふりつもらせる。地上絵はモザイクのこうずいみたいで。ひかり、おと、ことば、でんぱ。でんぱ。ひとからひとへ交わされる電波のいろはなにいろですか。きみはただしいものをちゃくしんしていますか。眼に見えぬでんぱでありますがそのなかから正しいものを選び取りちゃくしんし文字化してきみの眼前にくりひろげられるのがこの文字列であるわけでそれは確率の高い奇跡です。きみに正しくちゃくしんされているか画面の向こうで不安げなひょうじょうをしてたちすくむ無数の私がみえますか/みえませんか/ゆれながら/かきけされても。
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爪の先がわれて誤った文字を選択し消去するのをくりかえしている。ひるでもよるでもないようなほそながい時刻をついばみながら。なんどもなんども更新と消去をくりかえしすこしずつただしい文字列がかたちづくられて。わたしはわたしの速度でたちあらわれます。わたしたちという関係性に依存して存在するわたしですからきみとわたしの間接的なその距離感においてわたしはおぼろげに此処で息をすることを赦されています。ただひょうじょうのない文字列として。
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暖房のおとがきこえますか。わたしにはきこえています。きみにはきこえていません。きみはあたたかいですか。きみにどのようにすればぬくもりをとどけることができるでしょうか。きみのくにには雪がふっていますか。きみがこの文字列を宛名のないてがみとしてポケットにしまってくれるならこれ以上さいわいなことはありません。
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ケータイてふしぎ。さながら移動式のプラスチックの棺。折り畳み方はわかっています。所有権はきみにあります。