スカイプ連詩「閉鎖病棟」森川茂/フライハイ
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奇数連 森川 茂:偶数連 フライハイ
部屋から見える青空を見て
もう終わりにしたい
と、つぶやく
告白を聞く穏やかな審議官の微笑みは
閉じられた迷宮への通行証
なぜ生きている?
14階から飛び降りようとしたのは昨日の夜
思い出す
失敗して運ばれて、今、この場所にいる
なぜこんな場所に
明る過ぎるし
あまりに白く暖かい部屋
全てが零に戻されたわけではなく
漂着したのは
余りが附された時間軸
ここは狂人たちが押し込められる場所
つまりわたしも発狂したと言うこと
こんなはずじゃなかったのに
わたしは空に羽ばたくはずだった
最後の最後にこんな場所に閉じ込められるはずじゃなかったのに
歩けばすぐに突き当たる囲まれたセカイ
奇声が上がるのが当たり前のセカイ
暴力を否定しながらも力で均衡をとっているセカイ
断線しているセカイ
無為なセカイ
白い服を着た女の人が「点滴ですよ」とやってくる
何を点滴されるのかすら解らない
わたしはなすがままに傷だらけの白い腕を差し出し
浮いた血の管に針が刺し込まれてゆく
そしてこんなものが何になるのかと思いながらそっと瞼を閉じる
やってくる眠気にまかせ
わたしは浮遊する
痛みも苦しみもすくいとってくれるのは
かみさまではなく
あくまのしずく
苦しみが薄れた後には
軽くなった気分と同じだけ生きる気力も薄れ
或いはわたしはここでずっと暮らすのかもしれない
喫煙所で会った女性は14年間ここにいると言った
父親の葬儀にも出させてもらえなかったと
なにもかもわすれていって
季節もなくなって
残るのは一日の移ろいだけ
夜9時になれば灯を消され
また今日という日を忘れる
狂っているのがセカイなのか自分なのか
誰がそれを決められるのか
心の中で何度も問うてみるも答えは出ず
強い薬に無理矢理眠らされ
次の朝がやってくる
薬のせいではなく
湧き上がる欲求にまかせて
飛んだだけなのに
鉄の殻の卵の中で
孵化することさえできない
いっそひと思いに
この存在すら無くしてしまえば
否、はじめから無かったことにすれば
ここに居続ける事が出来たなら
それも可能かもしれない
いつかはちりぢりになるのだから
うまれてきたあきらめといっしょに
可能性を追いかける
それが原点から
全くうごいてないことになっても