夜から髭が出るのを待っている
真島正人


夜は閉じちゃった

漆黒を
塗り上げて
本当の夜はもっと
隙間だらけだったのに

閉じた夜の向こう側に
隠れちゃったお姫様
キミにはきっともう会えないからね
キミの好きだったいたずらっ子を探そうか

短い髭の
トラ猫ちゃん
髭がチラッと見えるのを待っている

女のおっぱいが
膨らんできたよ
男の寂しさが
はじけちゃったよ

台所とベッドを
つなぐ回路が
光の強さに負けちゃったよ

猫の髭はそれでもきっと
ふわふわ動くよ



夜は閉じちゃった

大きな画用紙のように
色を塗られて消えちゃった

夜を見たのって

いつのことだろう

キミは僕を
夜に招待した

その頃僕は
コミック雑誌片手に
かぁるい気持ちで遊びにいってた

ポッキーを食べたりしながら
屋根の上の
洗濯干し場で
一緒に

月を見上げたりしたね

閉じた夜の向こう側に
見えるのはキミかな

それともあのトラ猫ちゃん

僕はちょっと照れくさいな
歌さえ上手く歌えない
髭なんて本当は
なかったのかもしれないね

全部にせものさ
にせものばかり
そうだったんだと

いいたくなっちゃう

安らかな言葉に
だまされてきたよ

お日様よりも信頼できるものを
教えてもらったよ

そのおかげで
ずっと迷ってるよ

この道はあの道?
その道はこっちの道って
ホントかな?

猫の髭はそれでもきっと
ふわふわ動くよ



誘っているの?
誘ってないの?

君はよくわからない

キミのこと時々
忘れちゃう

大切なものができましたでも
キミは死んでいるので答えません

髭なんてどうでも
良いような気もするけれど……

僕はやっぱり
夜から髭が出るのを待っている

あぁ
素敵な可愛い
トラ猫ちゃん
君のものかどうかわからないけど

ちらっ
ちらっ


どうか見せてね

だって僕は

あの閉じちゃった夜の隙間から

髭が出るのを待っているから



自由詩 夜から髭が出るのを待っている Copyright 真島正人 2011-02-07 00:49:01
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