舌打ち
たもつ

 
 
町の公民館に移動映画館が来た
視聴覚室の小さなスクリーンと
パイプ椅子で上映された
打算的な男と女の物語だった
適当なところで事件が発生し
男も女もよく舌打ちをした
飽きてしゃべりだす子どもたちを
たしなめる親の声が
あちらこちらから聞こえた
映画は無難な結末で終わった
帰りに、一人で暮らしている
再従兄のアパートに寄った
先ほどまで寝台で横になっていたようだ
最近は手の震えがひどくて何もかも億劫だよ
そう言って湯を沸かし始めた
手伝おうとしたけれど
お茶を入れるくらいなら
と言って急須にお湯を注いだ
お茶を飲み
いくつかの世間話や親類の話をした
その後、簡単に部屋の掃除をして
シンクに溜まっていた食器を洗い
アパートを出た
掃除中に、いいから、いいから、
と言っていた再従兄の声が耳に残った
かえって傷つけてしまったのかもしれない
と思うのに精一杯で
他のことは特に何も思わなかった
 
 


自由詩 舌打ち Copyright たもつ 2011-01-27 23:14:39
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