洗剤コーナー
榊 慧

「らしくないね」「うん。」
ドラッグストアに行って今すぐサプリを物色したいんだけど、と電話をもらった。家に行った。ト―は廃材として売られていた小さな木片の詰め込まれたビニールを物色していた。「ドラッグストアは?」ト―は慣れた手つきで足元にあったのこぎりで木片をきっていく。ひいて。おして。ガガガガガ、ここが一番難しいんだよな。ト―は途中までのこぎりを進めてまた別の方向からひいておしてを繰り返した。ガガガガガ、ガガガ。「何作ってるの」ト―は目線を机にやった。「置いてあるだろ。」十字架。こいつ聖書とか読み込んでるんだよ、馬鹿だろう。と、こないだ合コンの席で言われた。ト―が。
でも結びつかない。
「それ何個め?」十字架はト―が作っているものもあわせて十六個もあった。「もう終わる。」そうだよいつも十字架を持ってる。とト―が言って、熱田神宮の快方お守りを僕はト―に奢ったんだよね。で、その日は僕もト―もいつも通りタダ飲みで早く抜けたことを少し思いだしていた。

神様だって賭けしてんのになんで野球賭博が問題なんの?ト―は僕と一緒にキャベツをちぎっては各自適当にして食べている。僕は塩と醤油とにつけていた。ト―それ話題が結構古いよ。本当に?それにト―にしては市井に暮らす人っぽい話題だね。本当に?そして市井っぽいっていいな。俺それになりたい。ト―はケチャップの賞味期限を確認してから冷蔵庫に閉まった。「六日前だった。」「何が?」「賞味期限」あまり使わないからな。ケチャップってあまり使わないって今俺再認識だよ。市井っぽくない?別に市井っぽくないよ。ト―。
のこぎりは新聞紙、木屑とともに置かれたままでまだ片づけられていない。
「ト―、のこぎりいつ出したの」「六日前。」

なあ、俺はどうあがいても俺自身配列の上のものであるということに他ならないと思うんだ。

俺はここんところのこぎりを床に置きっぱなしで大工さんなら怒りそうな具合に跨いだりその横で寝たり本読んだりしてたんだ。でもエクソシスト現象とかってやつもなければのこぎりが勝手に動き出す、ましてやそののこぎりが俺を痛めつけるなんていうのは夢にも出てこなかったし考えすらしなかったんだ。なんでいま考えてるんだろう。それくらいだった。そして俺はドラッグストアに行きたいと思ったんだ。
配列されているなかのもののそのうちの一つに他ならないんだよ俺は。
すごく怖いことだよ。俺はそれにだいぶん前から気付いていたんだ。今再認識した。俺は配列されているんだ。
配列されているんだ。

「ドラッグストアみたいだね。」
「俺はいつまで生きていればいいんだと思う?」







散文(批評随筆小説等) 洗剤コーナー Copyright 榊 慧 2011-01-25 22:30:06
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