ふれるひと
恋月 ぴの
はだかんぼうな大銀杏の木
それでも寒々しさは微塵にもなくて
なんだか凛々しい
思わずさわりたくなって
てのひらで逞しい幹にふれてみれば
生きているんだ
木なんだから動きもしないし喋りもしないけど
それでもやっぱそう思えてしまう
そんな大銀杏の木の下に
お父さん犬のように真っ白な犬が一匹
北海道犬じゃないらしいけど
くるっとまるまった尻尾と丸見えなお尻の穴ぷっくり
なんだかいさぎよいのかも
思わずなでたくなって
飼い主さんにことわって頭なでなでしてみた
生きているんだ
犬なんだから気持ちよさげに尻尾ふったりするけど
それでもやっぱそう思えてしまう
まだまだ風は冷たいよね
春を感じさせる日差しはあたたかなのに
吹き抜けてゆく北風は無愛想なほどに冷たい
ひと気の途絶えた家って瞬く間に崩れ去ってしまうんだね
ぽかんと開いた近所の空き地
なに屋さんだったのか、覚えてないのが悲しくて
それも生きているってことなんだから
かさかさと乾いて痛い唇にそんなことばが口をつく