目玉焼きと会話
榊 慧
死にたいとかどうしよう、どうしようもない、だから死にたい。で、死にたい。死にたいと本気で思っているのに生きているから死にたいんだよ。死にたいって一種のばかみたく唱えてるけどそれは本当に死にたいからなんだよ。ト―は俺にそう言った。
「死にたい」っていう選択肢を見つけて(いやそれは拾った、ないし与えられた)から僕はそれ以外の選択肢を探しても見つからなくなった。どこにもない。いろんなところを探す。文庫本の最後のページ、集めたポストカード、学校生活、同級生。全部俺に死ぬしかないと言っていた。死にたいがあふれていて僕はやっぱり死ぬしかないと声に出したりしてみた。死ぬしかない。死にたい。
僕は文章を書こうと思った。けどこのとき僕は既に読解能力と呼ばれるもの、例えば現代文の問題を解いたりということが苦痛だった。そして痙攣がしたりするようになっていた。タイピング能力も格段に落ちていらいらさせた。三行以上の独自の文章を以前のように書けなくなっていた。僕はなにもできないと本当に告げられた。熱田神宮で人々が賽銭を投げていたものとか聖書に出てくるなにかとかそんなようなのを総称したようなものに上から。なにもできない。死にたい。死にたい。死ぬしかできない。死んだ方が、だから死にたい。僕は大麻とか覚せい剤とかが手に入ればすると思う。ルートもわからないしきっと高いだろうからやらない。死んでみたいんだ。「死んでみたい」ト―は呟くと服を脱いでシャワーを浴びた。ト―にとってそれは三日ぶりのシャワーだった。
頭が高速回転するだろ?そしたらいきなりなんの前触れもなくとても静かに止まるんだ。いきなり。そしたら僕は高速回転しだした時にすでにパニックだったのに今度は止まってどうしたらいいのかわからなくなって、死にたいって。「冒涜と思う?」俺は答えを知らない。そのままト―の焼いた目玉焼きを食べていた。「だとしても、どうしようもないことなんでしょう」「そうだね。」ト―は中途半端に伸びてるから切りに行きたいと言ってそのままにしている髪をバスタオルで拭いた。「乾かさないの?」「僕の髪はドライヤーに慣れていないしそのうち乾くよ。」死にたいって祈ったらその祈った対象物がそれにむけてなんらかの努力を僕に課したりはするのだろうか。ト―はずっと考えている。
薄っぺらな精神世界しか僕はもとから持っていないんだよ。だから死にたいっていうのが入ってきたとき他のものは出ていってしまった。それだけなんだよ。だからこれは僕がうだうだ言っているこれはどこにも収容されずに消えていく。僕はせめて書きたいと思ったんだけど全然書く言葉が出てこなくて詰まってばかりで書けなかったんだ。今でもそのままで脱却できていなくて書けないんだ。苦しいよ。ト―は上半身裸のままそこにバスタオルを巻きつけるようにしてパイプ椅子に座った。ト―はパイプ椅子をどこかからか貰ってきてそれをずっと使っている。「ト―はでもおいしい目玉焼きを焼いた」俺は食べ終わった皿をト―に見せた。醤油と半熟の黄身がついている皿。「死にたい。」「おいしかったよ」「そうか。ありがとう。」僕は死にたいよ。目玉焼きみたく焼かれて食べられて死んでしまいたい。
ぽつり。ぽたり。「なにをしているの」「ここを切ってみたんだ」「何で」「カミソリ。」僕はずっとなんでかリストカットとかアームカットとか言われてる類のものはしなかったんだ。どうしてもっていうときには鉛筆をナイフでひたすら削ったりね。でも一回ふとやってみてそのあとどうしてもってときがきてやったんだ。誰も知らないよ。見せてもいない。「でも俺は知ったよ」「君はいいんだ。何か変わると思っていないから。」「そうだね。」僕は寮に戻らないといけないから、そこを困っているんだ。
「気持ち悪い」「どうして?」「食べすぎたかな」キウイフルーツ食べて終わりにするつもり。ちょっと歩いてみようかな。
僕は死にたいと思ってぐるぐるしてる。どうしようもないどうしようもなくて死にたい。これ以上の説明をする方法がわからない。たぶん、わかったらそれで済むんだ。死にたいとも思わないんだと思う。僕の精神世界は今点が二つあってそこが結ばれている。その一つが死にたいになったときからそれしか考えられなくて考えがすべてそこへ行き着くようになっているんだよ。そしてその点は僕にとって必要な点のうちの一つだからとってかわれない。三つめの点が出てきたら逃げ道でも出来るのかな。僕は生きていかなくちゃいけないから死にたいよ、なあ死にたい。
ト―はうなだれた。髪をぬらしている水分が水滴となって俺が置いた目玉焼きの皿に落ちている。ト―は立ちあがってそのさらを洗った。「ありがとう」