あの子
ズー

あの子が
シャボン玉を抱えて
わたしがみちみちと
はえている歩道に
立っている
唇の薄皮を摘み取って
よいことばを
鈴に詰めてしまった
火曜日の光景です

あの子は
三週間おきの通院の日に前の火曜日から何にもなかったよって事をたくさんもない引き出しを開けたりひっくり返したりして主治医の先生に教えてあげる
シャボン玉が割れてしまわないように静かな声で「ありがとうございました」と出ていった
あの子は
よいことばを詰めた
鈴を隠し持っていて
鳴らさないように
ポケットの中で
握っていた
その事は先生に
教えてあげないし
見せてあげないのです

帰り道の
いつもの自販機で
いつもの銘柄の
いつもの紅茶が
いつも甘くて
いつも押す
赤い光は
「売切」
です

だから
あの子が
冷たい手で
わたしにさわる
歩道に立っている

火曜日にはいつも
鈴が鳴らない


自由詩 あの子 Copyright ズー 2011-01-23 21:40:19
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