ご先祖様と酒と徳利と
只野亜峰

最近の日本といったら景気は下降の一途でしょう?
政権与党は一丁前に売国奴を気取っておりますし
母親は自分で生んだ子供を平気で噛み殺しますからね
全く持ってろくでもない時代でございますよ

いやはや全く旦那の仰るとおりでございます
皆様方の築き上げてきた今日の日でございますから
いえいえ、思うところは山ほどたくさんございましょう

どうぞどうぞ酒の一つも用意してございますから
今日は日頃の鬱憤など晴らしながら
明日の日本の未来を共に語り合おうじゃありませんか

なんですって?
女房がまたガキをこさえたから今から間引かなきゃならない?
そうですかそうですか、それはとても残念な限りです
いえいえ、それではいずれまたの機会に飲み交わしましょう

それで、こちらのお侍様は?
明日お城で切腹をする予定だから辞世の句を考えなきゃならない?
そうですかそうですか、それは一世一代の大仕事ですね
いえいえ、どうぞ一晩考え抜いて立派な句を紡いでくださいませ

はいはい、こちらのお兄さん方は
今からお寺で大奥のお姉さま方のお相手を勤めなくてはならない?
そうですかそうですか、それはぜひとも大いに励んできて下さい
いえいえ、それはもう皆様あってこその私達でございますから


それで、そちらの旦那は?

お暇!

お暇でしたか!ああ、良かった

私、このまま一人取り残されてしまうのかと思いましたよ
いえいえ、やはり一人で飲む酒ほど虚しい物はありませんからね
しかし、旦那ときたらずいぶんと上機嫌だ
何か良い事でもあったんでございましょうかね?あったんでございましょう?
良いじゃないですか良いじゃないですか、私と旦那の仲でしょう?

ええ、御子息がこの度めでたく海軍に徴兵された?
それはそれは、なんともめでたい事でございます
陛下の名の下に戦地に赴けるなど男子にとってこれ以上の誉れはございません
きっと旦那の御子息であれば大いにお国のために尽くしてくれますでしょうて

(徳利を旦那の杯に傾ける)

いやあ、良い気分だ今日はとことん付き合って頂きますよ


自由詩 ご先祖様と酒と徳利と Copyright 只野亜峰 2011-01-21 12:02:50
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