溺れ凍える
魚屋スイソ

首を絞めあって さきに死んだほうが勝ち というゲームをやって 恋人を殺しつづける夢をみて 窒息するなら深海がいいとおもった 部屋も 窓の外も煙も おまえの首も 真っ青だった 深海魚の眼球が退化せずに残っているのは 生物発光のネオンサインがあまりにも美しいからなのだろう 飼育していたミューズは突き放すことをしてくれない ピグマリオンは自分の頭をもぎ取り かかえこんで椅子に座っている 気付かないふりをしあうセックスや そのあと俯いて火をつける煙草よりも かなしいものに呼ばれていたい シャツを着込んで メロンソーダを飲みながら 死骸の積もる海の底に横たわる自分を想像していた 肺に残った最後の空気が昇るころ おまえはだれに殺されているのだろう 画家は眼球を引き抜きそれを塗料にし 音楽家は耳を千切りそれを楽器にした おれは首に手をあてがった 冷たい金属として海に落ち 乱反射しながら硬化するのだ はじめから指先は透明だった 煙草の火を消した スーツに袖を通し ネクタイを締める なにも息していない だれも降り積もっていない メロンソーダを水鉄砲に詰め ポケットに刺した 温度を下げながら 水は研ぎ澄まされていく ドアを開けた おまえはまだ寝ている おれはこれから自分がどこへいくのかを知らない


自由詩 溺れ凍える Copyright 魚屋スイソ 2011-01-19 05:30:18
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