昆虫と私
三条麗菜

幼い頃より私は
自分が昆虫の一族であると
思ってきました

色香だとか
瑞々しさだとか
まばゆさだとか
そんなものには縁がなく
私のからだは
金属のように硬く
乾燥しているのです

何より私は
砕かれる存在でした
昆虫にもやわらかい内蔵があり
食べたものはやわやわと消化され
とろとろの糞となって出ていきますが
それらを守るのは
キチン質と呼ばれる硬く薄い
殻だけなのです
それはやさしい指の中でも
壊れる

ぐしゃっ
ぐしゃっ
ぐしゃっ


夏のとある日に
幾千の木の葉が
風にこすれ合う音を
愛しています

昆虫という生き物は
その音を聞くためだけに生きていて
昆虫にとって幸せとは
その音がいかにこの世界に
満ちているかということです

さららさらら
さらさら
さららさらら
さらさら


その音は太陽と風が
力強く存在する証です
この大いなる恋人たちは
無数の昆虫たちの
祝福を受けるのです

悪童の補虫網に叩きつけられ
半分壊れかかった体でも
その音さえあれば
死は怖くない
怖くない

私はあの恋人たちの
愛の結晶となり
命を宿して
再び生まれてくるのです


自由詩 昆虫と私 Copyright 三条麗菜 2011-01-13 23:52:16
notebook Home