昆虫と私
三条麗菜
幼い頃より私は
自分が昆虫の一族であると
思ってきました
色香だとか
瑞々しさだとか
まばゆさだとか
そんなものには縁がなく
私のからだは
金属のように硬く
乾燥しているのです
何より私は
砕かれる存在でした
昆虫にもやわらかい内蔵があり
食べたものはやわやわと消化され
とろとろの糞となって出ていきますが
それらを守るのは
キチン質と呼ばれる硬く薄い
殻だけなのです
それはやさしい指の中でも
壊れる
ぐしゃっ
ぐしゃっ
ぐしゃっ
と
夏のとある日に
幾千の木の葉が
風にこすれ合う音を
愛しています
昆虫という生き物は
その音を聞くためだけに生きていて
昆虫にとって幸せとは
その音がいかにこの世界に
満ちているかということです
さららさらら
さらさら
さららさらら
さらさら
と
その音は太陽と風が
力強く存在する証です
この大いなる恋人たちは
無数の昆虫たちの
祝福を受けるのです
悪童の補虫網に叩きつけられ
半分壊れかかった体でも
その音さえあれば
死は怖くない
怖くない
私はあの恋人たちの
愛の結晶となり
命を宿して
再び生まれてくるのです