残火の迷夢
久石ソナ

青く光った矢印が
一斉に前を示し
両腕にしがみ付く怠惰な風は
酸っぱい痛みを産み落としていった。
萎んだ夜と悴んだ指先には
遠くの方から響いてくる
赤い点滅の伝言を
読み解くことはできなかった。
街灯の明かりには
私の指先を冷たくさせる何かが住み着いているのに
私にはどうしてもそれが
どんな匂いかわからない。

町の中を探しにきた月は
私に寂しさを蓄積させて
走りゆくライトの無頓着な態度にさえ
温かみを感じなければ
溶けゆく意識を止められないから
影には何も潜んでないよ、という
伝言を月へと
町の変わり果てた匂いと共に
届けにゆく。

ドアの前には疲れに似た人の顔の
明かりが灯り
町は夜の静けさに
こわいよ、こわいよ、と繰り返す。
重ねられた寒さ
ほとばしる色も
今では滲みはじめて
口移しの温もりを
彷彿とさせる。

近づいてくる不穏な悲しみに
木々の影は揺れている。
こんなにも枯葉で散らかして
おこられるよ、って
こわい顔して立ちすくむ車の音
家から溢れる明かり
咆哮を許された
均等に並べられた街灯に
私は照され いつまでも
さ迷っていることに
耳元に印された風は
秋の冷たさと共に答えている。



自由詩 残火の迷夢 Copyright 久石ソナ 2011-01-11 01:45:08
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