呟きの夏
たもつ

 
 
冷蔵庫の中から
ぼそ、ぼそ、と
人の呟きが聞こえてきた
扉を開ける
男の人が一人で
魚卵の粒を数えていた
時々、合わない、と言って
また一から数え始める
冷気と暗闇の中で
魚卵の形だけを頼りに
何度も数え直していたのだ
手伝えることはありますか
声をかけると
迷惑そうに男は扉を閉じた
カイロや計算機や懐中電灯などを
差し入れしようとしたけれど
扉は中から固く閉ざされ
二度と開けることはできなかった
そのようにしてわたしは夏を過ごし
冷蔵庫は幸せそうに
立ち枯れていった
 
 


自由詩 呟きの夏 Copyright たもつ 2011-01-07 06:55:29
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