ヒートテックに花束を
あおば

                  110103



プレート損失40ワットでは
寿命1850時間
うーむと唸りながら
真空管アンプに
電源を入れる
微かなノイズのあとに
ピアノソナタの確かなリズム
今日も生きているのだと
呟かなくてもよいのだ

1500円のソ連製の真空管
軍用GYー50型
ドイツ生まれで
第二次世界大戦後
寒い国でも使われた

1850時間÷24時間は約77日
2ヶ月と2週間
あまりにも短いですね
儚い夢ですねと
トランジスターが慰めて
ICの顔で振り返る
個が消えて
個々が集合化して
顔を変え
超能力を獲得したと
ユニクロの
ヒートテックも同意する
そこでは
ぬくぬくとあたたかで爽やかで
不思議なことはなにもありません
お金さえあれば
いつものとおりの生活が
いつまでも送れます

その声に
正月の行事は怪訝な顔で振り返り
今までのリズムが取れないと
走り疲れた駅伝ランナーの苦しそうな顔と
ゴールのあとで崩れるように倒れる映像からは
どんな音も感じとれないが
寿命1850時間の束縛のなかでも
絶え間ない振動とリズムに
音のある世界が拡がって
水が無くても
生きていけるような
気がする







「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。
タイトルは、帆かけさん。





自由詩 ヒートテックに花束を Copyright あおば 2011-01-03 14:29:29
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