傷の季
木立 悟




雨を抱えた朝の傷
ただ静かに銀になる
ただ静かに鳴り響く



縦の傷をよけ
横の傷を踏み
円い傷の外周をゆく
点の傷を飛び越え 飛び越え
光のほうへ転ばぬように
光のほうへ倒れぬように



雨は空の 雨は地の
雨は銀のよろこびの音
自分と同じ手のひらに
手のひらを合わせて泣いている音
はざまを流れる息の音
こぼれつづける珠の音



丘の上には灰色があり
高いほうへと流れゆく
空は遅く 地は速く
巨きな継ぎめの線たちが
蒼く蒼く遠去かる



目を閉じる双子の口もと
紙でできた二頭の象の背
碧に緑に水は降り来る
ふたつの傷を伝い流れて
異なる時間を駆けのぼる
二重の予感を駆けのぼる







自由詩 傷の季 Copyright 木立 悟 2004-10-29 13:19:25
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