傷の季
木立 悟
雨を抱えた朝の傷
ただ静かに銀になる
ただ静かに鳴り響く
縦の傷をよけ
横の傷を踏み
円い傷の外周をゆく
点の傷を飛び越え 飛び越え
光のほうへ転ばぬように
光のほうへ倒れぬように
雨は空の 雨は地の
雨は銀のよろこびの音
自分と同じ手のひらに
手のひらを合わせて泣いている音
はざまを流れる息の音
こぼれつづける珠の音
丘の上には灰色があり
高いほうへと流れゆく
空は遅く 地は速く
巨きな継ぎめの線たちが
蒼く蒼く遠去かる
目を閉じる双子の口もと
紙でできた二頭の象の背
碧に緑に水は降り来る
ふたつの傷を伝い流れて
異なる時間を駆けのぼる
二重の予感を駆けのぼる