夜と頸木
木立 悟





何もない場所に言葉があり
血のにおいをしている


隠れていて
近づくと現われる
正しいはずのない言葉
目をあけられないほど
美しい


何も聴こえぬ光をまとい
つまずきながら夜を歩く
周りばかりで中心の無い
細くまたたく径を巡る


爪を切り忘れた素足が
砂浜をなぞる
浪は狭く
うす暗がりにひろく


みなもとの潮
くりかえす差異
ささやかな ささやかな
無のあゆみ


祝うものなくはざまは在り
ひとつ輪のうた 流れつづける
人だかりが終わるころ
両手で夜の水を梳くもの


頸木が径に散らばり
案内をする
冬の次の冬へ
終わり ふちどり
したたる花へ


たどりつかない夜の手前の
たどりつく火にこそわだかまり
白は白を吐き
銀は銀と海鳥を吐く


冬の黒を呑み
羽は羽になる
ひとつの季のみを
鳴らす鈴となる































自由詩 夜と頸木 Copyright 木立 悟 2010-12-24 01:10:24
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