かくれんぼ
乾 加津也

できるだけしずかに
水子のゆくえを追いながら
いつまでも駁(まだら)のように
羊にだかれて
いたかったの
なのに
あの日から あなた(わたし)の
放水がはじまっている

あなたはそこよ
まるいながいトンネルのひんやりで
かたいヒールの木霊の連続(リズム)
むすんでひらいて
(あなたの好きなたくさんの書架で
 光は床にあたたかいわね)
そんなあなたも
もう弾めない
もうひろがれない
手毬のほころび いつまで
いきをとめていられるかしら

あんしんしきった返事は やめて
合図になるの
こうべを垂れているものが
太陽を真っ赤にしてやってくるのよ

 もういいかい
黒い
血汐がべっとりと
展望台の裏にシミをのこすわ
かならずいつか見つかるためよ
(救いとか 滅びとか そんなおそろしいことを伴って)

 もういいかい
指で押しのばす糊のように
壁ににじみ
いきをうすめて
水からで水からを
 るるる るるるる
ほどきましょう
(どうしてあなたは
 なにをそんなに
 慌てているの)

  それでもあなたが
  あらわれるのは
  細首の思念に
  一輪挿した薔薇の罪
  (あか!)

もういいかい
四方の
あなた もう
いないのかい


もう いいかい
もう いいかい



自由詩 かくれんぼ Copyright 乾 加津也 2010-12-22 15:18:31
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