居場所
一 二

何故かいきなり
また夏が始まる
角を曲がって坂を見上げると
食パンを咥えた妹が駆け下りて来た

真夏日に有りがちな夕立
には似合わない土砂降りの雨の中
妹は傘もささずに軽快に雨を避けて
俺に近付いて来て
こう言った
「理想と現実
どちらを引き換えに夢を買う?」
そこでブツリといきなり感覚が途絶えた

「夢だったのか?」
目覚めると俺は
得体のしれない何かを感じていた
いくら二次元とはいえ
日常生活では
宝くじに当選する
かのような確率でしか
経験できないことを
さも、時計でも見るかのように
眺めているからか…
それが、この異常事態に
巻き込まれてしまった原因だろう

「お兄ちゃん!起きて!」
下の階から妹が俺を起こす声が聞こえる
どうも先程の食パンを咥えた妹と
同じ声のような気がする
それ以前に俺に妹はいないはずなのに…
これはどういうことだ?

そんなことを考えていたら
あまりに俺が起きて来ないので
妹が俺の部屋に入って来た

取り敢えず俺は
「…君が俺の妹?まぁ良いや」
そう言って妹を受け入れてみた

「なに言ってんの?お兄ちゃん
私はあなたの妹で
あなたは私のお兄ちゃんよ」
妹はそう言ってくれた

とにかく、一番驚いたことは
非現実を一瞬で受け入れる
ことができる自分がいた事だった


「いつまでも泣いてないで
早くこっちに来ないと
本当に駄目になっちゃうよ」

「しくじった青春に耐えて
楽しい老後を
私と一緒に過ごそうよ

「恋愛感情がある訳じゃないんだから
勘違いしないでよね」
それが、妹の口癖だった

妹の人格を知る上で
参考となることが、もう一つ
彼女は満面の笑みで
目の前の非現実を受け入れる
ような人格の持ち主だった
自らも非現実で在りながら

妹と朝食を食べ終え
外に出ると
そこには見渡す限りの
海が広がっていた

妹はこう訪ねた
「空って…どこにあるの?」

俺はこう応えた
「海と砂浜の境を見分けるのは簡単だけど
空と海の境を見分けるのは難しいね
どちらも綺麗な青だから」
そして二人とも黙り
青に見とれていた
すると潮風が妹の髪を撫でた
そうか、今は途絶えた所からの
続きなのか…

俺達は日差しに当たることに疲れ
真っ白な砂浜に寝転んでいた

俺は妹に尋ねた
「全ての生き物は昔
海に住んでたらしいよ
妹ちゃんはどこからやり直したい?」

そう言うと妹は
「確かに、今と昔は一つで繋がってるけど
これまでは気にせず
これからだけを気にしなくちゃ
そんなの一々気にしてたら
大事なものを見失っちゃうよ」

そしてまた二人とも押し黙る

その砂浜から見える海の向こう
陽光煌めく細波の果てに
感覚が途絶えた後の
自分がいる場所が見える

ここから見えるその場所は
少なくとも、ここからは
悪徳と不貞だけで
動かされているように見えた

あの場所は水平線の遥か先だ
けれども、この感覚が途絶えれば
こんなにも、ここから離れているのに
気が付けば戻されている

「受け入れなかったんじゃない
受け入られなかったんだ、あの場所に
けれど受け入られなくても
また、あの場所に戻るのか…
今が永遠に続けば良いのに…」
声に出す訳でもなく
思っただけなのに

妹は、こう応えた
「永遠は、ここにあるよ」
いきなり、そんなことを言われた
妹に出会うまでは
俺はこんな世界があるなんて
思いもしなかったんだ

そこで俺は、こう叫んだ
「誰しも賢しらぶって
『夢ばっかり見てたら駄目になる』
なんていうが
それが本当なら
俺が嘘にしてやる」
そう言うと
そこでまた途絶えた

ちなみに妹は
俺の妄想だった

※作者の夢のため
似たような夢がまた見れるまで
御休みとさせて頂きます


自由詩 居場所 Copyright 一 二 2010-12-21 16:43:22
notebook Home 戻る  過去 未来